働き方・インタビュー

北米型救急と日本型救急の違い

 以前、中山先生の北里大学救命救急センター研修手記をお送りしましたが、北里はいわゆる日本型救急をゴリゴリに実践している施設です。北里の良いところを取り入れて…とは言ってもそもそもの体制が異なり、当弘前大学高度救命救急センターではICU型の10病床を運用しているものの(入院病床は基本持たない)北米型救急寄り、なんだと思います。多分。各診療科が非常に協力的なので成り立っているとも言えますいつもありがとうございます。いずれにせよ北米型・日本型のどちらが良いとか優れている、という話ではなく、それぞれの地域で求められる医療や体制が異なるため救急の方針・体制も様々になるのでしょう。

 救急体制の違いがイマイチよく分からずモヤモヤしている人多数(「北米型って何なのさ?」など)、と学生の皆様からリクエスト頂きました。確かに、自分が学生の時は誰も教えてくれなかったなぁ。リクエストにお応えしてオリジナルで解説、するよりも元ネタのHPで非常に分かりやすく解説していたため、デフォルメしてお送りさせて頂きます(手抜きとも言う)。


 日本の救急医療にはICU型のいわゆる日本型救急や、各科あいのり型救急、ER型救急、北米型救急が混在しています。ER型救急は北米型救急と似ているようですが、ER型と自称していても救急車だけしか受け入れていない病院もあれば、産科や小児科の診療受け入れ制限を行っている病院もあります。またER型でも救急専従医がおらず、各診療科が当番で勤務していたり、研修医だけで診療しているのが実態の病院もあります。またER型救急の中には専従する救急医がいても、入院診療を同時に行っているためにワークライフバランスが維持できず、モチベーションを失いやすい病院もあります。

救急専従医が高いモチベーションを維持しつつ、高度な知識とベーシックで安定した技術をワークライフバランスを保ちつつ、全ての患者に提供するのが北米型救急とER型救急の違いということができます。

日本型救急と北米型救急の違い

 分かりやすくするために日本型救急と北米型救急に分けて説明していきます。日本型救急の医師は、救急搬送された患者を診察し、自ら主治医となって集中治療を施し、退院まで診ていきます。一方、北米型救急の医師は病棟診療がありませんから、ICUや病棟で患者の診療を行うことはありません。まして退院する姿をみることもありません。

​このように言葉にすると、日本型救急の医師は入院から退院まで自己完結するため、自己完結型救急とも呼ばれます。一方、北米型救急の医師は、救急外来で目の前の患者に集中治療や緊急手術が必要なのか、一般入院でよいのか、帰宅させてよいのかを判断し、必要に応じて専門診療科にコンサルトを行います。そのためか”振り分け屋”とか”トリアージ屋”と揶揄されることがあります。

​日本型救急では多くの場合、主治医制をとっています。自分がいないときは代理の医師を立てることでチーム制であることを主張したりしますがメインの医師は決まっています。最初から最後まで責任をもって患者をみる、ここにやりがいを感じる医師も多いはずです。

また、世間の人から見ても「責任のある医師のあり方像」に近いのは日本型救急のスタイルではないでしょうか。比べて、北米型救急の医師はシフト制で働きます。できるだけ多くの時間帯をカバーしながら、救急外来専従で働く医師が交代勤務をしています。

​それぞれが診ている患者は、日本型救急では基本的に重症者のみとなります。あらゆる救急患者の入院をすべて診てしまうと主治医として担当している患者数が大きくなりすぎて機能できないためです。北米型救急では重症から軽症まであらゆる患者を診ています。当然ながら対象となる患者数は膨大な数です。膨大な患者数を診るが故に、入院診療をしていると手が回らないのです。

​結果として日本型救急システムの病院では救急外来を受診する患者は限定的となり、救急搬送数はそれほど多くありません。一方で北米型救急システムの病院は救急搬送数もウォークイン患者数も膨れ上がり、ハイボリュームセンターと呼ばれるようになります。

​日本型救急 ー 少数の重症患者が対象

北米型救急 ー あらゆる患者が対象

​これをさらに突き詰めていくと、日本型救急と北米型救急では救急外来としての役割がや使命が違うことに気づきます。日本型救急では目の前の重症患者に注力することが役割であり、使命です。その代わり軽症者や中等症の患者は診療そのものを制限して「不適切な受診」といて受け入れを断ることになります。救急隊が受け入れ要請をしても、重症でなければ地域にある他の病院へ搬送を指示することになります。救急外来の医療資源に余裕があれば軽症者や中等症の患者でも受け入れることはできるでしょうが、基本的には重症者が対象となります。

​実はここに潜在的な問題が隠れているといわれます。救急搬送要請には応需率という言葉があります。もし日本型救急スタイルで重症を受け入れる拠点病院が地域に1ヵ所しかなかった場合のことを考えてみましょう。救急隊の現場での判断はアンダートリアージ(過小評価)を避けるために、オーバートリアージをするのが原則です。総務省の統計では救急隊による現場評価の70%は重症と評価されています。つまり70%の救急車は重症を受け入れる病院へ搬送要請がなされることになります。当然ながら拠点病院は常に忙しい状態になり、救急室のベッドがなければ、すぐに応需拒否がなされます。受け入れを断られた患者の評価は重症です。次に救急隊が応需要請をするのは、重症をみる機能の乏しい救急病院です。考えられるのは、無理して受け入れるか、「そんな重症は受け入れられない!」と断るかのどちらかです。・・・そうなのです。たらい回しが始まっているのです。

​日本型救急のスタイルを貫いてしまうと、たらい回しが起きやすいのがわかります。その重症と評価された患者はいったいどこの病院が受け入れたらよいのでしょうか。しかも救急隊が70%も重症と評価しながら、軽症と評価していた中に「実は重症であった」というケースが8%程度あります。救急隊が「軽症ですから受け入れお願いします」と言われ受け入れた重症をみる機能の乏しい病院では、どうなっているでしょう。軽症だから、と見逃されるか、対応ができずに重症を受け入れる拠点病院へ連絡し、転院させようとします。しかし、拠点病院は応需拒否の状態ですから転院もできないかもしれません。患者は適切な医療を受けられずに不幸な転機をたどってしまうでしょう。

北米型救急スタイルでは、軽症や中等症だからという理由での受け入れ拒否はありません。もともと患者数が多くても診療が継続できるように医師は働いています。負荷が少なくなるように時間で区切って、シフト制で勤務しています。普段から短時間のオーバースペックでも耐えられるように教育されており、たとえ災害のような多数傷病者が発生してもよいようにしています。救急隊の現場活動での評価に限界があることもよく知っています。たらい回しがおきないのです。

日本型救急 ー たらい回しが起きやすい構造

北米型救急 ー たらい回しを起きにくい構造

さらに言及していくと、自己完結型の日本型救急の医師は、あたかも一人で医療を施し患者が治癒していく過程を診ることができます。患者や家族から直接お礼を言われることも多いでしょう。救急外来を受診したときの重篤な状態を見ていた家族からすると、退院して自宅へ戻ることができるようになるなんて夢のようでしょうし、それを主治医の先生が頑張って治療してくれたという思いは、個人的な感謝に繋がりやすいものです。また、それだけ重篤な患者を診るのが慣れていない他科の医師からすると、自己完結で診てくれる医師は頼もしいですし、やはり「診てくれてありがとう」の一言がいいやすいものです。そのため日本型救急の医師は自己満足度が高い環境にあるともいえます。

​ところが北米型救急の医師は救急外来でしか患者の対応をしません。重篤な患者の多くは意識障害を伴っていますから、入院して治療のあと意識が回復しても北米型救急医のことは覚えていないか、覚えていても記憶は新しい主科の医師に上書きされていることでしょう。北米型救急医は患者や家族から感謝されるということは、ほとんどありません。他の科の医師にはコンサルトという形で入院や手術をお願いするわけですから、他科の医師からすると、

「突然呼び出されて、患者を振り分けてきて、自分たちでは入院も診ない。入院を診るのがどれだけ大変か分かってんのか?」と愚痴を言われることもあるものです。

誰かに感謝されたくて医師になったわけではないでしょうが、感謝されるというのはモチベーションを高める大きな要素であるのは間違いありません。

では北米型救急医の高い満足度はどこにあるのでしょうか。

北米型救急医が助けている相手は大きく分けて3つあります。

1つは救急外来で救命を必要としたり、不安で来院する「目の前の患者」です。これはどの診療科でも同じことでしょう。

2つ目はシフトを組んで昼も夜も勤務することで慣れない救急診療や当直をするストレスを回避でき、体力を温存して翌日の手術や業務に臨める「他の診療科の医師」です。

3つ目は継続して救急医療を展開することでたらい回しが起こさず、どんな繁忙期でも断らない救急を貫徹して安心を与える「地域社会」です。

「目の前の患者」や「他の診療科の医師」は比較的わかりやすいかもしれませんが、「地域社会」を助けているという自覚は感謝されることもありませんから、満足度を得にくいためこれを理解するには人間的な成熟が必要かもしれませんが、これを理解した北米型救急の医師は、自己満足のために自分のやりたい医療を振りかざすのではなく、「地域社会」といった一歩高い視点をもって、そのために何が必要か?と考え、自分を変えることができる医師でもあります。

​日本型救急 ー 自己満足のために自分のやりたい医療をする

北米型救急 ー 地域社会のために自分を変化させて働く

​多くの患者の心身の最大幸福を願っているのはどちらも同じですが、より多くの患者を受けいれ、救急外来で最適化をはかりつつ全体をマネジメントし、目の前の患者に対しては高度な判断力と救命力を発揮しているのが北米型救急の医師といえます。


 いかがでしたか?上記のような救急体制の違いに加えて、実は同じ「救急医」でも各個人で「求める仕事」の方向性が結構異なります。それこそ日本型救急で「退院まで主治医となって診療したい!」という先生もいれば、重症患者の集中治療メインで仕事したい先生もいますし、北米型救急で幅広く診療して各専門科に割り振る「トリアージ屋でいいよ上等じゃねえか」という先生もいます。どれでも良いと思います。自分で選択できます。どんな仕事がしたいですか?是非!弘前大学高度救命救急センターで一緒に働きましょう!おまちしております〜

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