抄読会・症例検討会

視床出血の症候学・治療・リハビリ

  • 視床は大脳基底核の一つで、感覚情報を大脳皮質に伝える重要な役割を担っています。
  • 嗅覚を除くあらゆる感覚(光、音、味覚、触覚、体の動き)の情報を中継する場所です。

視床出血は大脳深部の視床で発生する脳出血であり、多彩な神経症状を引き起こします。以下に、視床出血に関する知見をまとめました。

症候学

視床出血の症状は出血部位や大きさによって異なりますが、以下のような特徴があります。

  • 左視床背内側核から前腹側核にかけての出血では、表情が乏しく、喚語困難、錯誤、保続が著明で、記憶および問題解決能力の障害がみられることが多い[1]。
  • 意識障害(初期に約1/4)、眼球の内下方偏位、縮瞳と対光反射の減弱、顔面を含む対側の片麻痺・感覚障害がある。
  • 優位半球の視床出血では約半数で視床性失語(超皮質性感覚失語ないし超皮質性混合性失語)を呈し、自発語の減少、音量の低下、錯語、呼称障害、保続、理解障害などが特徴。
  • 劣位半球の視床出血では病態失認、視空間失認、構成失行などを呈する。

原因とリスクファクター

視床出血の主な原因は高血圧による動脈硬化であり、穿通枝と呼ばれる細い血管が破綻することで発生します。リスクファクターとしては以下のようなものがあります。

  • 高血圧は脳出血発症の最大の危険因子であり、収縮期血圧が10mmHg上昇する毎に発症リスクが上昇する。
  • アルコールの過剰摂取は視床出血の危険因子だが、被殻出血の危険因子ではない。
  • 脳卒中や出血の既往がある場合、再発リスクが高い。

治療方法

脳出血急性期の血圧上昇は転帰不良の強力な予測因子であり、血圧管理が重要です。血圧上昇は血腫拡大、再出血、脳浮腫悪化に関連するため、急性期の降圧治療としてニカルジピン原液の持続静注が考慮されます。基本的には内科的治療が中心となりますが、出血が脳室に穿破した場合は脳室ドレナージ術が検討されることもあります。

リハビリテーション

視床出血患者の多くは発症後早期からリハビリテーションを開始します。血腫非増大例の78%で発症1週間以内に、血腫増大例では1〜2週間でリハビリテーションが開始されています[3]。早期からの積極的なリハビリテーションが機能回復に重要であり、長期的に継続することでさらなる改善が期待できます[3]。

予後

視床出血の予後は血腫の大きさや部位、進展方向などによって大きく左右されます。血腫量が10mm未満の患者は機能予後が良好との報告がある一方で、臨床では血腫量が少量でも歩行自立に至らないケースもあります。

後遺症として、視床痛と呼ばれる手足の強い痛みやしびれ、感覚障害を伴った半身麻痺などが残存することが多く[1]、日常生活に支障をきたすことがあります。ただし長期的なリハビリテーションにより一定の機能回復が期待でき、ある症例では発症7年後になっても運動項目や認知項目のスコアが改善したとの報告もあります[3]。

視床は大脳皮質のほとんどの領野と線維連絡をもつ重要な部位であり、その障害は多彩な症状を引き起こします。視床出血の治療では、急性期の適切な血圧管理と亜急性期からの積極的なリハビリテーションが予後改善に寄与すると考えられます。患者の状態に合わせた適切な治療とリハビリテーションを行うことが、視床出血患者のQOL向上につながるでしょう。

Citations:
[1] https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/58/7/58_58.771/_pdf
[2] https://www.matsuyama.jrc.or.jp/media/careers/PDF/resident/e/conference/2021/canf001.pdf
[3] https://www.jsnt.gr.jp/guideline/img/nou2009_07.pdf

-抄読会・症例検討会