抄読会・症例検討会

抄読会:セロトニン症候群

セロトニン症候群(Review Article)N Engl J Med 2005 Mar 17;352(11):1112-20.

PMID: 15784664 DOI: 10.1056/NEJMra041867

 最近、セロトニン症候群と思しき症例を経験しました。恥ずかしながらセロトニン症候群についてはほとんど知らず、今回は精神科Dr.に指摘されてからの加療でした。2005年のNEJM Reviewが秀逸です。以下に簡単にまとめました。ご参考になれば幸いです。

まとめ

いきなりまとめです。

セロトニン症候群

・うつ病はセロトニン・ノルエピネフリン低下→治療はSSRI・SNRIなどでこれらを増やす

・セロトニン症候群はSSRI・SNRI単回投与でも発生する可能性あり

・うつにMAO拮抗薬+合成麻薬投与で発症の可能性↑

・セロトニン症候群の85%は誤診か見逃し(SSRI過剰内服の14-16%に発症)→そもそもセロトニン症候群を知らない医師多数

・薬歴と振戦・腱反射亢進・clonus・眼球clonus・>38℃・譫妄・発汗で疑うべし

・セロトニン↑は抗うつ薬・MAOI・麻薬・プリンペラン・イミグラン・デパケン・メジコン・ザイボックスなど

・悪性症候群は抗精神薬過剰か抗パーキンソン薬中断でドパミン低下による→薬中止か抗パーキンソン薬開始・ダントロレン

・悪性症候群は緩徐進行・運動緩慢・固縮・発熱。反射亢進なし・瞳孔正常・GI症状無し

病態

 セロトニンは中枢神経系において意識、注意、体温管理、末梢神経系では腸管蠕動、血管収縮、神経筋接合部(その他:血小板の凝集)などに作用するとされています。

このセロトニンが過剰になって起こるのがセロトニン症候群です。SSRI、SNRIなどがセロトニン症候群を惹起する代表的な薬剤ですが、それ以外の薬剤でもセロトニン症候群が起こります。以下の薬剤がその原因として指摘されています。

原因薬剤

抗うつ薬:SSRI/SNRI/TCA/MAOI
覚せい剤:アンフェタミン、コカイン、MDMA
鎮痛薬:フェンタニル、トラマドール、ペンタゾシン
制吐剤:5HT3阻害薬(オンダンセトロン)、メトクロプラミド
抗てんかん薬:バルプロ酸、カルバマゼピン
片頭痛治療薬:トリプタン製剤
まれなもの:デキストロメルファン(メジコン)、リチウム、ブスピロン、リネゾリド

臨床像

 セロトニンは中枢神経(意識・注意・体温管理)、末梢神経(神経筋接合部・腸管蠕動・血管収縮)などに関与するため、これらが過剰に刺激される症候を呈します。具体的には中枢神経系において不穏、意識障害、高体温、末梢神経領域ではミオクローヌス(神経筋接合部での過敏性)、下痢(腸蠕動亢進)、発汗、頻脈、血圧の変動などが挙げられます。シェーマが強烈でしたので巻頭に載せておきました。もう一回。

実際にはごく軽症なものから重症なものまで疾患の幅が非常に広いです(これが見逃されてしまっている原因の一つと思います)。軽度なものでは興奮状態くらいですが、重度になると昏睡状態までなり筋緊張も亢進してきます。この状態になると特に「悪性症候群」との鑑別が問題になります。

セロトニン症候群の自然経過は1~2日をピークとして自然と改善していく場合が多いですが、悪性症候群は1週間くらいかけて発症して1週間くらいかけて改善してきます。このように発症と改善のスピード感が両者を鑑別する上では大きなポイントになると思います。

どのように鑑別するか?

 意識障害や不随意運動で「トキシドローム(Toxidrome)」から考えるのが一番良いと思います。つまり、バイタルサイン、瞳孔、発汗、気道分泌物、腸蠕動、皮膚の状態などからトキシドロームのどれに該当するのか?と考えるところから始まります。セロトニン過剰の場合は交感神経過剰の場合と似ていますが、セロトニン過剰では皮膚発赤を認めること、そしてミオクローヌス深部腱反射亢進を認めることが特徴的。

診断:Hunter criteria

 セロトニン症候群の診断は臨床診断で、検査では診断することは出来ません。血中セロトニン濃度と症状の関係はないとされており、採血をする場合は電解質異常、甲状腺機能亢進症など他疾患の除外のために行います。臨床診断の基準として最も用いられているのがHunter criteriaです。

1. セロトニン作用を持つ薬剤を内服している
2. 以下のうち1つを認める
・誘発なく起こるクローヌス
・誘発されるクローヌス+興奮状態or発汗
・眼球クローヌス+興奮状態or発汗
・振戦+深部腱反射亢進
・筋緊張亢進
・体温38度以上+眼球クローヌスor誘発されるクローヌス

感度:87%、特異度:97%

注意点
通常量の内服でも発症することがある
・薬物の初回内服、投与量変更後に注意が必要
・どの年代でも発症しうる

セロトニン症候群は過小診断(underdiagnosed)が多いとされています

その原因としては、

・そもそも医師がセロトニン症候群を知らない
・症状が多彩

などが挙げられています。セロトニン症候群の85%以上が誤診もしくは見逃されているとも報告されており、まずは薬剤と症候から疑う姿勢が極めて重要です。

治療の基本は”Supportive care”
1. 原因薬物中止(原因薬物が中止されない限り自然に軽快することはない)
2. バイタル安定化
3. 鎮静(Benzodiazepine系)

セロトニン拮抗薬はcontraversal

一般名:Cyproheptadine(シプロヘプタジン)商品名:ペリアクチン 4mg/1T *粉砕経管投与可能(処方例)cyproheptadineinitial dose:12mgsubsequent dose:2mg q2hr(臨床上改善が認めるまで)

セロトニン拮抗薬は積極的に使用する根拠には乏しいのが現状です。効果あるとする論文もあるものの、consensusは得られていません。そもそも軽症であれば自然と改善、重症でmuscle rigidityが亢進している場合「悪性症候群」との区別が難しく、むやみにセロトニン拮抗薬を投与することは状況を複雑にしてしまうだけの可能性があります。その他の拮抗薬olanzapine, chlorpromazine, propranolol, bromocriptine, dantroleneどちらも積極的には勧められてはいません。

治療での注意点:解熱薬(acetaminophen)を使用しない


筋肉の過剰収縮による熱産生が原因であり、視床下部での体温セットポイントの変更ではないため解熱薬は全く効果ありません。通常は24時間以内に軽快することが多いです(NMSでは改善により時間がかかることが多い)。


いかがでしたか?以下はConnected Papersの結果です。2019年の論文では治療法が模索されていましたご興味あれば是非読んでみて下さい。なお、当サイト内で使用した論文画像および、Connected Papersの結果につきましては転載禁でお願いいたします。

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