抄読会・症例検討会

劇症型溶血性レンサ球菌感染症→敗血症ショック・心機能障害

劇症型溶血性レンサ球菌感染症(group A Streptococcus:GASによるstreptococcal toxic shock syndrome:STSS)は、感染症法に基づく5類全数把握疾患であり、「β溶血を示すレンサ球菌を原因とし、突発的に発症して急激に進行する敗血症性ショック病態」と定義され、診断した医師は7日以内の届出(最寄りの保健所)が義務付けられています

 俗に「人食いバクテリア」などとニュースでも話題になっており、東京で流行してるとかサッカーの試合が中止になったとかなんとか、実は青森県でも少しずつ増えてます…下は青森県感染症発生情報2023年第8週のデータです。

溶連菌感染症(通常の)

溶連菌感染症は、A群β溶血性レンサ球菌(Group A Streptococcus, GAS)によって引き起こされる一般的な感染症です。これには咽頭炎(扁桃炎)、発疹性咽頭炎(スカーレットフィーバー)、皮膚感染症(とびひ、蜂窩織炎)などが含まれます。これらの感染症は比較的軽症で、適切な抗生物質治療によって治療することが可能です。

劇症型溶血性レンサ球菌感染症(GASによるSTSS)

劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、A群β溶血性レンサ球菌が原因ではあるものの通常の感染症よりもはるかに重症であり、迅速な医療介入を必要とします。筋肉や脂肪組織を急速に破壊する壊死性筋膜炎、血中に大量のバクテリアが放出される敗血症、多臓器不全を引き起こす可能性があります。また、毒素性ショック症候群(STSS)として知られる重篤な状態を引き起こすこともあります。

これらの違いを認識し、症状の早期発見と迅速な対応がいかに重要であるかを理解する必要があります。ここで一つ興味深い症例報告をご紹介します。

和文なので読んで頂ければと存じますがさらにまとめてみました。忙しい先生方のご参考になれば幸甚です

 この症例報告は、敗血症性心筋症(SICM)による重篤な心機能障害を合併し、機械的循環補助によって生命を救われた35歳の男性患者について述べています。SICMは、敗血症に伴う可逆的な心筋障害とされており、循環動態の破綻と死亡率の増加に関連しています。この患者は、溶血レンサ球菌(溶連菌)による毒素性ショック症候群で敗血症を発症し入院治療を開始。しかし、高用量の昇圧薬と強心薬の投与にもかかわらず循環動態を維持できず、veno-arterial extracorporeal membrane oxygenation(VA-ECMO)とintra-aortic balloon pumping(IABP)の導入を余儀なくされました

  • 背景: 敗血症性心筋症(SICM)は敗血症による可逆的心筋障害で、循環動態の破綻と死亡率増加に関連。
  • 症例: 35歳男性。溶連菌性毒素ショック症候群による敗血症でSICMを発症し、薬物療法では改善せず。
  • 治療: 高用量の昇圧薬と強心薬の効果がなく、VA-ECMOとIABPを導入。
  • 結果: 患者の心機能は徐々に改善し、機械的循環補助から離脱。心機能は正常化。
  • 結論: SICMの治療において、VA-ECMOは薬物療法で循環動態の維持が困難な際の有効な治療選択肢である可能性が示唆された。

 治療開始後、患者の心機能は徐々に改善し、最終的には機械的循環補助から離脱でき、心機能は正常化しました。この症例は、SICMが可逆性であり、薬物療法だけで循環動態の維持が困難な場合にVA-ECMOが有効である可能性を示唆しています

経過が激烈に早い…入院3日と言わずVA-ECMOってのはビックリです…

敗血症の約40%に重篤な心機能障害が合併!

敗血症の心機能障害合併は、実臨床で皆様実感されているかと存じますが、40%…うーん思ってたより多い印象です。

敗血症と心機能障害

  • 敗血症は全身の炎症反応を引き起こす重篤な状態であり、感染症が原因です。この全身性の炎症反応は、血管の透過性の増加、血液凝固の異常、微小循環の障害などを引き起こし、多臓器不全に至ることがあります。
  • 心機能障害は敗血症の合併症として特に重要です。心筋が敗血症による炎症性サイトカインの影響を受けると、心筋細胞の機能障害や心筋の構造的変化が起こり得ます。これにより、心のポンプ機能が低下し、敗血症性ショックや心原性ショックを引き起こす可能性があります。

敗血症性心筋症(SICM)

  • 定義と発生率: SICMは、敗血症に伴う可逆的な心筋障害とされています。敗血症患者の約40%に心機能障害が見られるという事実は、この病態が敗血症の重症度を反映し、また予後に大きく影響する可能性があることを意味します。
  • 機序: SICMの発症機序は完全には解明されていませんが、過剰な炎症反応による直接的な心筋細胞の障害、微小血管の障害による血流低下、心筋の代謝異常などが関与していると考えられています。
  • 診断と治療: SICMの診断は、心エコーを用いた心機能の評価、血中の心筋損傷マーカーの測定などに基づいて行われます。治療は、原因となる敗血症の管理と心機能のサポートが中心です。重症例では、前述の症例報告のように機械的循環補助が必要になることもあります。

まとめ

敗血症における心機能障害の高い合併率は、敗血症の診断と治療において心機能のモニタリングと管理が非常に重要であることを示しています。SICMの早期認識と適切な治療介入は、敗血症の予後改善において中心的な役割を果たします。このような合併症を認識し、敗血症の管理における心機能評価の重要性を理解する必要があります。敗血症ときたらルーチンで心機能評価検査入れましょう。

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