抄読会・症例検討会

抄読会:急性大動脈解離

急性大動脈解離(セミナー)The Lancet, March4, 2023 doi: 10.1016/S0140-6736(22)01970-5

 真冬なのにやたらと暖かい昨今、皆様いかがお過ごしでしょうか?エルニーニョのおかげで青森では2月中旬にして積雪ゼロを記録しました。最高気温15℃とかもう4月か?と、むしろ4月前に弘前城の桜咲いたりしないか心配です…さて、15℃を記録した同日、暖かいからと油断していたワケでもないでしょうが急性心筋梗塞や脳卒中症例が多発して救急外来は大忙しでした。そんな中、急性心筋梗塞かと思いきや急性大動脈解離だった症例もあり勉強しなきゃなぁと思った次第です。The Lancet, March4, 2023に急性大動脈解離の総説(セミナー)を読んでみましたのでダイジェストしてお送りいたします。

まとめ

  • 院外心停止の7% がtype A解離、0.5% がtype B解離→解離由来の心停止の死亡率100%
  • Stanford・DeBakey分類では弓部限定の解離は分類できない→non-A・non-B解離と定義
  • 解離疑いでADD-RSチェック、D-dimer>500→造影CT!血圧左右差>20・縦郭>8cm
  • 初期治療:opioidsとβ拮抗薬(Ca拮抗薬)でHR60、BP<120
  • Type Aは即手術、下行大動脈からの逆行type Aはfrozen elephant trunk
  • TypeBの保存治療→6年生存率41%→血管内治療(stent graft)増加傾向
  • 遺伝50%:Marfan、 Loeys-Dietz、脳動脈瘤、AAA,腎嚢胞、大動脈二尖弁、側頭動脈炎
  • 大動脈径 34mm↑は解離リスク ≧∮45mm→患者の1親等はスクリーニング推奨
  • 術前の抗血小板、抗凝固薬投与は独立した死亡因子
  • 診断遅延因子:発熱、女性、正常血圧
  • ステント後の近・遠位での解離:pSINE、dSINE←typeB保存治療の38%で合併症

以下で数点ピックアップして補足します。

弓部のみの解離は分類できない→non-A・non-B解離と定義

急性大動脈解離では血管壁の平滑筋が進行性に消失しており変性・弱化・動脈瘤形成→解離につながります。急性大動脈解離は初期の内膜断裂の位置とその進展・サイズで手術か保存加療かザックリ見当をつけねばなりません。心外科Dr.にコンサルトするにしても言い方と気合が変わります。

過去10年で大動脈解離の病態生理の理解が進み現在の分類の再考が行われ、形態・機能に即した分類が提案されました。従来の大動脈解離の分類にはStanfordとDeBakeyがあります。しかし問題は大動脈弓部限定の解離です。StanfordのAでもBでもなく分類に困ってしまいます。

Type A 解離は最初の内膜破綻部位(entry tear)が上行大動脈であろうと大動脈弓部であろうと、上行大動脈に解離があることを意味します。もしentry tearが弓部か下行大動脈であるなら「retrograde(逆行性)type A」といいます。進行率(attrition rate)に関与するのは心タンポナーデと大動脈弁逆流であり心不全進行、臓器環流(心筋、脳、内臓)低下を起こします。

Type B 解離は胸部下行大動脈+腹部大動脈の解離をいいます。上行大動脈と弓部は常に含みません。Type B複雑型(complicated type B thoracic aortic dissection)は疼痛の存在、薬剤抵抗性高血圧、初期の大動脈拡大、環流低下、血胸や縦郭血腫などの合併をいいます。大動脈径>40mmは合併症が多いとのことです。Re-entry tearsが多いと偽腔拡大が少なく、偽腔が完全血栓化すると合併症は少なくなります。

Non-A・non-B解離は内膜断裂が上行大動脈より遠位(弓部)、または下行大動脈にあり逆行性に弓部に進展した場合です。もし断裂が弓部で止まればnon-A・non-B 解離であり、上行大動脈まで至ればRetrograde type A大動脈解離と言います。最初のentry tearが弓部にあると破裂リスクは最も高く、retrograde type Aや終末臓器低環流を起こしやすいとのことです。いずれも急性、亜急性(2週以上)、慢性(3カ月以上)に起こり得ます。断裂が弓部限定ならnon-A・non-B解離であり、上行大動脈まで至ればretrograde type A解離です。

解離疑いでADD-RSチェック、D-dimer>500→造影CT!血圧左右差>20mmHg・縦郭>8cm

 意識障害鑑別のAIUEOTIPSに解離は入っていません!失神では必ず大動脈解離を含めなければなりません。以下は、急性大動脈解離を疑った際のアルゴリズムです。失神が入っていることに注意です。左右血圧差>20mmHg、大動脈弓レベルで縦郭幅>80mmか縦郭/胸部>0.25は覚えましょう。しかし、左右差無くても解離していることもあります(今回の症例はこのパターンでした)。最近は救急隊も解離を疑うと血圧の左右差を測ってくれてます。

急性大動脈解離を疑った時のアルゴリズム

Step 1:急性大動脈解離を疑う(症状軽くても非典型的でもまずは疑う!

●胸痛、背部痛、腹痛、腰痛の存在

●失神

●脳虚血、腸間膜虚血、心筋梗塞、跛行

STEP2:ADD-RS (Aortic Dissection Detection Risk Score)12項目をチェック

●高リスク素因5つ:下記1つでもあれば1点。

i) Marfanまたはその他遺伝子疾患

ii) 大動脈疾患の家族歴

iii) 大動脈弁疾患

iv) 最近の大動脈カテまたは手術

v) 胸部大動脈瘤

●高リスク胸痛・背部痛・腹痛の特徴3つ:下記1つでもあれば1点。

vi) 突然発症

vii) 激痛

viii) 裂ける(ripping)ような、破られる(tearing)ような痛み

●高リスク理学所見4つ:下記1つでもあれば1点。

ix) 脈拍左右差、血圧左右差(>20mmHg)

x)神経巣症状

xi) 大動脈弁逆流の心雑音

xii) ショック、低血圧状態

STEP3 診断評価←ADD-RS 12項目の点数

●ADD-RS≧2点:造影CTを行う

●ADD-RS1点未満でもD-dimer≧500ng/mlなら造影CTを行う。

●ADD-RS1点未満、D-dimer<500ng/mlでも胸部エコー・胸部Xpで疑えば造影CT

・大動脈弓レベルで縦郭幅>80mmか縦郭/胸部>0.25

・エコーでintimal flap、偽腔(+)、AR、大動脈二尖弁、心嚢水、胸水、心タンポナーデ

STEMI(ST上昇の心筋梗塞)を強く疑うが大動脈解離を除外できないとき

●急性胸部痛:必ず10分内に心電図確認

●STEMI疑いで血行力学的に不安定±ショックなら心エコー施行、AAD疑えば造影CT、AAD疑わなければ冠動脈造影

●STEMI疑いで安定しており

・ADD-RS≧1点は心エコーでAAD可能性(+)は造影CT、可能性(-)は心血管造影

・ADD-RS<1点は心血管造影。

生存には迅速な造影CTが最も重要でありECG同期造影CTが最善です

CTによりtype A大動脈解離であっても予後がよいのは、大動脈径<5㎝、壁内血腫厚<1㎝、巨大潰瘍(-)などでCTでわかります。CTはMRIより短時間にできます。大動脈解離を正確に診断する血液検査はありませんがD-dimer(>500ng/mL)や、心エコーで大動脈径>40mm、flaps、大動脈弁閉鎖不全、心嚢水またはtamponade、胸部写真での縦郭拡大には診断的価値があります。

Type B 解離:保存治療で6年生存率41%→血管内治療(stent graft)増加傾向

Type Bの大動脈解離治療は一般的には保存的で最大限の鎮痛と血圧コントロールを行ないます。しかし、6年生存率(intervention-free survival)は41%でその自然歴は厳しいものです。

下行大動脈解離は急性期以後、大動脈径は変わらぬか増大するので血管内治療が行われるようになっています。血管内治療+内科治療で形態的リモデリングは91.3%で促進され、一方内科治療だけでは19.4%でした。しかし、2年後の死亡率は変わらなかったとのことです。一方、INSTEAD-XL trialでは血管内治療+内科治療で5年生存率改善、疾患進行減速が見られたためESC(European Society of Cardiology)guidelinesは合併症のないtype Bで初期、晩期の合併症軽減のため血管内治療を勧めるようになりました。

複雑(complicated)type B 胸部大動脈解離とは持続痛や内科治療に反応しない高血圧、大動脈径の急速拡大、大動脈周囲血腫、CTで2スライス以上にわたる血胸で破裂切迫の時、臓器不全が切迫する環流不全の時を言います。このような患者は30-40%に及び、迅速診断が鍵となります。これらの患者の1/3で内臓虚血が見られ院内死亡と強く関連します。

IRAD(The International Registry of Acute Aortic Dissection:急性大動脈解離の国際登録)では複雑type B胸部大動脈解離で血管内治療が行われたのは1996年から2001年で35%、2008年から2013年ではなんと68%に上昇しました。

弓部のnon-A・non-B解離は対処困難→frozen elephant trunk

Non-A・non-B解離は最も対処が難しいそうです。以前はtype Bと同様に保存治療で良いと思われていましたが、最近の経験から弓部の内膜断裂を塞ぐためfrozen elephant trunk prosthesisが使われるようになりました。もっとも多い適応は重症臓器環流不全や大動脈断裂です。最近は下行大動脈、または弓部にエントリーのあるnon-A non-B解離では発症2週以内に修復が行われます。

術前の抗血小板、抗凝固薬投与は独立した死亡因子

大動脈解離の患者は抗血小板薬や抗凝固薬を投与されていることが多いですが、抗血小板薬投与の患者は輸血量が多くなります。抗血小板薬投与は独立した死亡因子であり死亡率は26%対10%、odds ratio 6.8です。また手術死亡率は全体で14%ですが抗凝固薬もDOAC群53%、coumadin(ワーファリン)群30%です。術中cardiopulmonary bypassでフィルターをかけることにより除去できます。

診断遅延因子は発熱、女性、正常血圧。睡眠時無呼吸も解離リスク!

大動脈解離の罹患率は3-16人/10万人と幅が広いようです。急性大動脈症候群(acute aortic syndrome)の年齢調節・性調節罹患率は7.7/10万人年で男性に多く(10.2/10万人年)、女性に少ない(5.7/10万人年)そうです。女性での発症は男性より高齢でアウトカムは不良です。IRADによると急性大動脈解離の2/3はtype A、1/3はtype Bで罹患率のピークは60歳前後です。

大動脈解離の診断遅延因子は、女性(hazard ratio: 1.73)、発熱(5.1)、正常血圧(2.45) とのことです。睡眠時無呼吸により大動脈解離リスクが60%増加します。今回の症例も普段は血圧正常も睡眠時無呼吸症候群でした…140/90以下に降圧しましょう。

ステント後の近・遠位での解離:pSINE、dSINE←type B保存治療の38%で合併症

なんとtypeB解離をTEVAR(thoracic endovasucular aortic repair)で修復した後でも、その遠位で破裂を起こすことがありdSINE (ディーサイン:distal stent graft induced new entry)といいます。dSINEではグラフトの遠位端がビラン、dissecting membraneの破裂を起こして新たなentry tearsをおこし急速な直径増加を起こしかねません。これと同じことがtype Aでグラフトの近位端で起こりpSINE (proximal stent-graft induced new entry)と言います。Type B保存治療の38%で合併症が起こります。


いかがでしたか?個人的には「睡眠時無呼吸症候群」が解離リスクなんだなあと。知りませんでした精進が足りません。また、幸い保存加療になったとしても6年生存率41%は衝撃的でした。しかし、ステント治療してもステントの縁で解離…勉強になります。救急センターでは診断・降圧・鎮痛→心臓外科コンサルトですが、論文読みながら心臓外科の先生方の治療適応判断に思いを馳せた次第です。

以下はConnected Papersの結果です。この他、国内2020年の大動脈解離ガイドラインも是非読んでみて下さい。なお、Connected Papersの結果につきましては転載禁でお願いいたします。

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