抄読会#11にて市中肺炎についてLancet総説を元に解説しましたが、2024年9月JAMAに最新のレビュー論文:市中肺炎(Community-Acquired Pneumonia: CAP)が掲載されました。研修医・医学生向けに重要なポイントを解説します。
はじめに
肺炎は、依然として入院と死亡の主要な原因となる一般的な疾患です。特に高齢者や基礎疾患を持つ人々にとって重症化のリスクが高く、適切な診断と治療が不可欠です。
市中肺炎(CAP)とは?
市中肺炎(CAP)は、病院外で罹患する肺炎と定義されます。近年では、以前は「医療関連肺炎」と分類されていた、最近の入院または介護施設入所後に肺炎を発症した患者もCAPに含まれるようになりました。市中肺炎は米国において年間約140万人の救急受診、74万人の入院、4.1万人の死亡をもたらす重要な感染症です。30日死亡率は60歳未満で2.8%、60歳以上で26.8%と高齢者で予後不良です。65歳以上のCAP患者の約3割が死亡するという統計も示されています。
市中肺炎の最新知見:JAMA 2024年総説の解説
診断基準の整理
CAPの診断には以下の条件を満たす必要があります:
- 以下の徴候(signs)または症状(symptoms)のうち2つ以上:
- 体温 >38℃ または ≤36℃
- 白血球数 <4,000/μLまたは >10,000/μL
- 新規または増悪する咳嗽
- 呼吸困難
2. 胸部画像での浸潤影の存在
3. 他疾患での説明が困難であること
病原体同定の現状
2015年のEPIC研究の結果が重要な知見を提供しています:
- 病原体同定率はわずか38%
- 同定された病原体の40%がウイルス
- 肺炎球菌は同定例の15%(全体の5%)
診断アプローチの変革
画像診断
胸部X線検査の感度は中央値70%(範囲16-95%)、特異度は中央値55%(範囲0-94%)と必ずしも高くありません。特筆すべきは、CTで確認できる肺炎像の43.5%しかX線では描出できないという点です。
検査の適応
検査実施の判断基準として最も重要なのは「その検査結果により治療方針が変更されるか」という点です
- COVID-19・インフルエンザ流行期:両ウイルスの迅速検査は必須
- その他のウイルス検査:治療方針に影響しないため、原則として不要
治療戦略
外来治療
合併症のない患者:
- アモキシシリン 1g×3回/日 または
- ドキシサイクリン 100mg×2回/日
合併症を有する患者:
- アモキシシリン/クラブラン酸 + アジスロマイシン または
- セフポドキシム/セフロキシム + アジスロマイシン
入院治療
標準的治療:
- セフトリアキソン + アジスロマイシンの併用
- 治療期間:3-5日(重症例では7日以上)
- 重症例ではステロイドの併用も考慮
重症度評価
入院の必要性判断にはPneumonia Severity Index(PSI)の使用が推奨されます
特殊な状況での対応
MRSA・緑膿菌への対応
リスク因子:
- 過去90日以内の入院歴
- 静注抗菌薬使用歴
重要な知見:
- MRSA鼻腔スワブ陰性の場合、陰性的中率は99%
- 抗MRSA薬は重症例に限定して使用
プロカルシトニンの活用
- 0.1ng/ml未満:細菌感染合併の陰性的中率98.3%
- 0.5ng/ml以上:陽性的中率はわずか9.3%
予防的アプローチ
CAP既往患者に対する推奨事項:
- 禁煙・禁酒
- 各種ワクチン接種(インフルエンザ、肺炎球菌等)
- 口腔衛生の徹底
- 食事方法の指導(一口サイズ、食後30分の座位保持)
最新の知見
肺内細菌叢の新しい理解
従来の「無菌説」は否定され、多様な細菌叢の存在が確認されています。細菌性肺炎は単一病原体の侵入ではなく、既存の細菌叢の中での優位種の変化として理解されています。
誤嚥性肺炎の概念変更
従来の嫌気性菌重視の考え方から、肺化膿症・膿胸以外では嫌気性菌の関与は限定的とする考え方へ変更されています。
研修医・医学生へのメッセージ
本総説の重要な教訓は、「必要最小限の検査と適切な経験的治療の組み合わせ」という考え方です。全ての検査を行うのではなく、治療方針に影響を与える検査を選択的に実施することが推奨されています。
また、65歳以上のCAP患者の30%が死亡するという事実は、高齢者の肺炎を決して軽視してはならないことを示しています。さらに、肺炎患者の9.2%に肺癌が発見されるという報告は、肺炎の背景疾患の検索の重要性を示唆しています。