抄読会・症例検討会

総説:緊急気管挿管

Am J Respir Crit Care Med. 2025 Jul;211(7):1156-1164. PMID: 40238943

重症患者の緊急気管挿管は約40%の症例で低酸素血症・低血圧・心停止といった重大な合併症を伴う高リスク手技です。最新の総説論文のエッセンスから、要点をコンパクトにまとめます。

非侵襲的換気による前酸素化推奨

気管挿管の前酸素化では、非侵襲的換気(NIV)の使用が一般的な酸素マスクと比べて、低酸素血症や心停止の発生率を大幅に減少させることがランダム化試験で示されています。特にPREOXI試験では、低酸素血症の発生率が18.5%から8.1%へ、有意に減少したことが報告されています。誤嚥リスクも両群で顕著な差は認められていません。禁忌がなければNIVでの前酸素化が推奨されます。

バッグマスク換気での導入推奨

麻酔導入後~喉頭展開前の短時間(45~90秒)にバッグマスク換気(陽圧換気)を行うことで、低酸素血症の発生率を約半減できることが示されています(PreVent試験)。誤嚥リスクも最小限であるため、禁忌なければ積極的に実施してください。

ビデオ喉頭鏡による初回成功率向上

挿管時は、直接喉頭鏡よりもビデオ喉頭鏡(VL)のほうが初回成功率が高いことがDEVICE試験などで示され、VL使用が標準となっています。VLでは食道挿管リスクも低減され、経験の浅い術者ほどVLの恩恵が大きいとされます。

スタイレット付きチューブの有用性

スタイレットを挿入した気管チューブで挿管すると、単独チューブ使用よりも初回成功率が高いことがSTYLETO試験で示されています。一方、ブジー(bougie)使用はスタイレットとの大きな差はなく、VL下でのスタイレット使用が合理的な選択肢です。

血圧低下対策:輸液ボーラス投与は有効性なし

麻酔導入前の500mL晶質液ボーラス投与による低血圧予防は、PREPARE II試験などで有効性が否定されています。現段階で確立した予防法はなく、今後の昇圧薬予防投与の研究結果が待たれます。

現時点でのエビデンスに基づく流れ(概略)

  • 非侵襲的換気(NIV)で前酸素化
  • 薬剤はエトミデートまたはケタミン、筋弛緩薬はロクロニウムまたはサクシニルコリン
  • バッグマスク換気による陽圧換気(導入〜喉頭展開前)
  • ビデオ喉頭鏡+スタイレット付きチューブで挿管
  • 晶質液ボーラス投与による低血圧予防は推奨しない
  • 挿管後はカプノグラフィ等で位置確認

さらなるエビデンスが求められる領域

  • 挿管時薬剤の詳細選択(ケタミン vs エトミデート)
  • 筋弛緩薬の選択(ロクロニウム vs サクシニルコリン)
  • 抗血圧低下薬(昇圧薬)予防投与の有効性
  • チューブサイズの最適化

まとめ:安全・確実な気管挿管には「NIVによる前酸素化」「導入時バッグマスク換気」「ビデオ喉頭鏡+スタイレット付きチューブ」を基本手技とし、輸液ボーラス単独での低血圧予防は推奨されません。今後も新たなエビデンスへの注目が必要です。

本総説のTable 1に最新エビデンス一覧が図示されており、臨床判断に役立ちます。ぜひご一読ください!

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