
今回は、2026年に Lancet 誌に掲載された敗血症総説 “Sepsis” を紹介します。敗血症は、感染に対する宿主反応の調節不全によって生命を脅かす臓器障害を来す症候群であり、救急外来、一般病棟、ICUのいずれでも遭遇しうる重要な病態です。総説では、最新の疫学、診断の考え方、抗菌薬投与のタイミング、初期蘇生、循環・呼吸管理、さらに退院後の長期予後まで、敗血症診療の全体像が体系的に整理されています。
敗血症診療では、「見逃さないこと」と同時に、「過剰診断しないこと」も重要です。感染症らしく見えても、実際には肺塞栓、心不全、薬剤反応など、敗血症に似た病態が背景にあることがあります。一方で、本当に敗血症であれば初期対応の遅れは予後に直結します。だからこそ、この総説は医学生・研修医の段階でぜひ一度読んでおきたいレビューです。
この論文で学べる12の要点
❶ ICUにおける敗血症の院内死亡率は「30.3%」
ICUで行われた多国籍調査では、敗血症患者の院内死亡率は30.3%と報告されています。さらに、敗血症性ショックでは死亡率が40%を超えるとされ、敗血症が現在でも極めて重篤な病態であることがわかります。
❷ 成人敗血症の臨床診断は「ベースラインからSOFA 2点以上の上昇」
成人の敗血症は、感染に伴いSOFAスコアがベースラインから2点以上上昇した場合に、生命を脅かす臓器障害として捉えます。SOFAは脳、循環、呼吸、肝、腎、凝固の6臓器系を評価し、本文でも臨床的運用の中心として位置づけられています。
❸ 敗血症性ショックの基準は「輸液後も要昇圧薬+乳酸高値」
敗血症性ショックは、循環血液量を是正した後も平均動脈圧65 mmHg以上の維持に昇圧薬を要し、かつ乳酸値が2 mmol/Lを超える状態と定義されます。これは単なる低血圧ではなく、循環・代謝異常を伴う、より重篤な病態です。
❹ 敗血症の多くは市中発症だが、院内発症は「10〜15%」で予後不良
敗血症の多くは市中発症ですが、院内発症は全体の10〜15%を占め、より不良な転帰と関連します。救急外来だけでなく、入院患者の急変としての敗血症にも注意が必要です。
❺ 血液培養で起炎菌が見つかるのは「20〜30%」
血液培養は重要な検査ですが、陽性率は20〜30%程度にとどまります。しかも結果判明には数日を要し、細菌性敗血症として治療される患者でも、最終的に感染が確認されるのは60〜70%程度とされています。
❻ ショック例では経験的抗菌薬を「1時間以内」に投与
敗血症性ショックでは、抗菌薬投与までの時間と死亡率の関連が最も強いことが示されており、1時間以内の経験的抗菌薬投与が重要です。診断確定を待つよりも、まず必要な治療を遅らせない姿勢が求められます。
❼ 非ショック例の抗菌薬は「重症度に応じて1〜6時間以内」
一方、ショックを伴わない患者では、抗菌薬投与の遅れと死亡率の関連はショック例ほど一貫していません。総説では、5〜6時間を超える遅延で不利益が目立つと整理されており、重症度に応じて評価しつつ、投与を決めたら速やかに実施することが大切です。
❽ 抗菌薬投与期間は「5〜7日間」が基本
深部感染や特殊病原体など、長期治療が必要な場合を除けば、抗菌薬は5〜7日間で十分なことが多いとされています。原因菌や感受性が判明した後は、de-escalationを行い、必要最小限の治療へ移行することが重要です。
❾ 初期輸液は「晶質液 最大30 mL/kg」を検討
敗血症患者の多くは、摂取不足や血管外漏出などにより低容量状態にあり、初期蘇生では平衡電解質液を含む晶質液で最大30 mL/kg程度の投与が検討されます。成人では、200〜500 mLを5〜10分で投与するfluid challengeが一つの実践的な目安です。
❿ 第一選択の昇圧薬は「ノルエピネフリン」、目標MAPは65〜70 mmHg
初期輸液後も低血圧が持続する場合、第一選択の昇圧薬はノルエピネフリンです。目標となる平均動脈圧は一般に65〜70 mmHgで、必要であれば末梢ルートからの早期開始も考慮されます。高用量カテコールアミンには有害性もあるため、漫然と増量し続けない視点が重要です。
⓫ 第二選択は「バソプレシン」、低用量ヒドロコルチゾン併用も考慮
ノルエピネフリンのみで十分な血圧維持が難しい場合は、バソプレシンの追加が第二選択として位置づけられています。また、血管反応性改善を目的として、低用量ヒドロコルチゾンの併用が考慮される場合もあります。
⓬ 退院後も終わりではない――「3人に1人」が1年以内に死亡
敗血症は急性期を乗り越えてもなお大きな影響を残します。総説では、退院した敗血症患者の約3人に1人が1年以内に死亡し、その約半数は敗血症関連合併症に直接起因するとされており、敗血症を「救命できたかどうか」だけでなく、長期予後まで含めて捉える必要性が強調されています。
研修医・医学生が押さえたいポイント
この総説から学べる最も大きなメッセージは、敗血症診療が単なる感染症治療ではなく、感染巣の推定、抗菌薬選択、循環管理、呼吸管理、そして回復支援まで含めた総合診療だということです。とくに初期対応では、ショックの有無を見極めること、抗菌薬を遅らせないこと、輸液を入れすぎないこと、必要に応じて早期に昇圧薬を使うことが重要です。
敗血症は、日常診療で頻繁に遭遇しうる一方、診断も治療も決して単純ではない病態です。今回紹介したLancet総説は、定義や診断基準だけでなく、抗菌薬投与の考え方、初期蘇生、循環・呼吸管理、長期予後までを一望できる、非常に実践的なレビューです。敗血症を「点」ではなく「流れ」で理解するためにも、医学生・研修医の皆さんにぜひ読んでみてください。