抄読会・症例検討会

抄読会#31:AHA 2025 BLS/ACLSガイドラインの要点

 2025年、American Heart Association(AHA)の成人Basic Life Support(BLS)およびAdult Advanced Life Support(ALS/ACLS)ガイドラインが改訂されました。普通にダウンロードして読めます。今回の改訂では劇的なアルゴリズムの変更は避けられたものの、より質の高い蘇生を目指した微調整が行われ、従来から重視されてきた早期認識、早期通報、質の高いCPR、早期除細動の重要性が改めて強調されています。

成人心停止の初期対応では、医学生・研修医がまず身につけるべきことは、複雑な薬剤投与よりも胸骨圧迫を遅らせないこと、圧迫中断を最小限にすること、除細動適応を逃さないことです。

2025年改訂の重要ポイント

1)BLSでは「胸骨圧迫を直ちに開始」が最優先

成人が反応なく、無呼吸または異常呼吸、すなわち死戦期呼吸のみの場合、一般救助者は心停止とみなして対応します。医療者は10秒以内に脈拍を確認し、明確に触知できなければ心停止としてCPRを開始します。

2)訓練を受けた救助者・医療者では換気も重視

AHA 2025では、すべての一般救助者に胸骨圧迫が推奨されます。一方、訓練を受けた一般救助者では、胸骨圧迫に人工呼吸を加えることが合理的とされています。医療者では、心原性・非心原性を問わず、成人心停止に対して胸骨圧迫と換気を行うことが合理的です。

3)心房細動・心房粗動の同期カルディオバージョンは初回から高エネルギー

ACLS領域では、心房細動・心房粗動に対する同期カルディオバージョンでは、初回エネルギーとして200 J以上が望ましいとされています。

4)ETCO₂は有用だが、単独で判断しない

波形カプノグラフィによるETCO₂は、気管挿管確認、CPRの質の評価、ROSCの推定に有用です。ETCO₂の急激な上昇はROSCを示唆しますが、ETCO₂のみで蘇生中止を判断してはなりません。

5)POCUSはCPRを妨げない範囲で使用

心停止中のPOCUSは、心タンポナーデ、緊張性気胸、肺塞栓など可逆的原因の評価に役立つ可能性があります。ただし、胸骨圧迫の中断を延長しないことが前提です。

成人BLSの実践ポイント

心停止の認識

以下を認めた場合は、心停止として対応します。

  • 反応がない
  • 正常な呼吸がない
  • 死戦期呼吸のみ
  • 医療者では、10秒以内に明確な脈拍を触知できない

脈拍確認に時間をかけすぎるとCPR開始が遅れます。疑わしい場合は、胸骨圧迫を開始する判断が重要です。

通報とCPR開始

単独救助者は、成人心停止を認識したら、まず救急通報を行い、その後ただちにCPRを開始します。携帯電話がある場合は、スピーカーモードなどのハンズフリー機能を用いて、通報とCPRを可能な限り同時並行で行います。

質の高い胸骨圧迫

質の高いCPRの基本は以下です。

  • 圧迫速度:100〜120回/分
  • 圧迫深度:成人では5〜6 cm
  • 圧迫後は胸郭を完全に戻す
  • 胸骨圧迫の中断を最小限にする
  • 過換気を避ける
  • 2人以上いる場合は、およそ2分ごとに圧迫担当を交代する

胸骨圧迫の中断は冠灌流圧を低下させ、ROSC率に影響します。除細動前後の中断も可能な限り短くします。

圧迫と換気の比

高度気道確保前の成人CPRでは、胸骨圧迫と人工呼吸の比は30:2です。人工呼吸は1回約1秒かけ、胸郭が上がる程度とし、過換気を避けます。高度気道確保後は、胸骨圧迫を中断せず連続して行い、換気はおよそ6秒に1回、すなわち10回/分を目安に行います。

AED使用

AEDが到着したら速やかに装着します。解析・ショックのための中断は最小限にし、ショック後はリズム確認や脈拍確認を挟まず、ただちに胸骨圧迫を再開します。

成人ACLSアルゴリズムの要点

成人心停止では、まずリズムを以下に分けて考えます。

  1. ショック適応あり:心室細動 VF、無脈性心室頻拍 pVT
  2. ショック適応なし:心静止 asystole、無脈性電気活動 PEA

VF / 無脈性VT

VFまたは無脈性VTでは、早期除細動が最重要です。二相性除細動器が推奨され、初回エネルギーは機器の推奨設定に従います。設定が不明な場合は最大エネルギーを考慮します。基本的な流れは以下です。

  1. CPR開始、酸素投与、モニター・除細動器装着
  2. VF/pVTならただちに除細動
  3. 除細動後すぐにCPR再開
  4. 2分ごとにリズム確認
  5. 初期除細動で改善しない場合、エピネフリンを投与
  6. 難治性VF/pVTではアミオダロンまたはリドカインを考慮

エピネフリンは成人心停止で推奨され、標準用量は1 mgを3〜5分ごとです。ショック適応リズムでは、初期除細動を優先し、除細動で改善しない場合に投与します。

アミオダロンまたはリドカインは、ショック抵抗性VF/pVTで考慮されます。これらは生存退院率を明確に改善するとは限りませんが、病院到着までの生存など短期転帰改善が示されています。

Asystole / PEA

心静止またはPEAでは、除細動の適応はありません。対応の中心は、質の高いCPR、早期エピネフリン、可逆的原因の検索と治療です。基本的な流れは以下です。

  1. CPR開始
  2. 可能な限り早期にエピネフリン1 mg投与
  3. 3〜5分ごとに反復投与
  4. 2分ごとにリズム確認
  5. 5H5Tなど可逆的原因を検索・治療

Asystole/PEAに対してアミオダロンやリドカインを routine に使用するわけではありません。抗不整脈薬は主に難治性VF/pVTで考慮します。

可逆的原因:5H5T

心停止では、アルゴリズムを回しながら可逆的原因を同時に検索します。

5H

  • Hypovolemia:循環血液量減少
  • Hypoxia:低酸素
  • Hydrogen ion:アシドーシス
  • Hypo-/Hyperkalemia:低K血症・高K血症
  • Hypothermia:低体温

5T

  • Tension pneumothorax:緊張性気胸
  • Tamponade:心タンポナーデ
  • Toxins:中毒
  • Thrombosis, pulmonary:肺塞栓
  • Thrombosis, coronary:急性冠症候群

POCUS、血液ガス、既往歴、内服薬、現場情報などを用いて、CPRを妨げない範囲で原因検索を行います。

気道管理とカプノグラフィ

高度気道管理は、胸骨圧迫を妨げない範囲で行います。声門上器具または気管挿管のいずれも、実施者の技能や施設・システムに応じて選択されます。気管挿管後は、連続波形カプノグラフィでチューブ位置を確認します。ETCO₂は以下の評価に有用です。

  • 気管チューブ位置確認
  • CPRの質の評価
  • ROSCの示唆
  • 蘇生中止判断の補助

ただし、ETCO₂は心拍出量、換気、エピネフリン投与、重炭酸投与、気道管理、心停止原因などの影響を受けます。したがって、ETCO₂のみでROSCや蘇生中止を判断してはいけません。

頻拍性不整脈への対応

不安定頻拍

血圧低下、ショック、意識障害、虚血性胸痛、急性心不全などを伴う頻拍は不安定頻拍として扱い、同期カルディオバージョンを行います。

心房細動・心房粗動

AHA 2025では、心房細動・心房粗動に対する同期カルディオバージョンでは、初回から200 J以上が望ましいとされています。

多形性心室頻拍

多形性心室頻拍は常に不安定と考え、持続する場合は同期を待たずに除細動を行います。torsades de pointes、すなわちQT延長を伴う多形性VTではマグネシウム投与を考慮します。

血管路と薬剤投与

心停止中の薬剤投与では、まず静脈路 IVを試みます。IV確保が困難または遅れる場合は、骨髄路 IOが合理的な代替手段です。気管チューブ内投与は、血中濃度が不安定で予測困難なため、2025年ガイドラインでは実用上の推奨から外れています。

蘇生中止判断

AHA 2025では、蘇生中止判断において、BLS TOR、ALS TOR、Universal TORなど、救急隊・医療システムの範囲に応じたルールを使用することが強調されています。ETCO₂低値は予後不良を示唆しますが、単独で蘇生中止の根拠にはしません。研修医が理解すべきポイントは、蘇生中止は「何分やったか」だけで決めるものではなく、以下を総合して判断することです。

  • 目撃の有無
  • バイスタンダーCPRの有無
  • 初期波形
  • 除細動の有無
  • ROSCの有無
  • 可逆的原因の有無
  • ETCO₂や動脈圧などの生理学的指標
  • 患者背景・DNAR・医学的妥当性

ROSC後ケアの基本

ROSC後は「心拍が戻ったら終わり」ではありません。低酸素、低血圧、発熱、高血糖、けいれんなどを避け、脳保護と原因治療を進めます。 主な管理目標は以下です。

  • 酸素化:SpO₂ 94〜98%を目標に過剰酸素を避ける
  • 換気:PaCO₂ 35〜45 mmHgを目標
  • 循環:MAP 65 mmHg以上を目標
  • 血糖:140〜180 mg/dL程度を目標
  • 体温:昏睡患者では体温管理を行い、高体温を避ける
  • 神経評価:早期の単独所見で予後を決めない

ROSC後も、急性冠症候群、肺塞栓、低酸素、電解質異常、出血、中毒など原因検索を継続します。

神経予後予測

心停止後の神経予後予測は、単一の検査や所見ではなく、多面的評価 multimodal assessmentで行います。評価は少なくともROSC後72時間以降、または体温管理後に鎮静薬などの影響を除いてから行うことが重要です。

予後不良を示唆する所見には以下があります。

  • 頭部CTで灰白質・白質境界の不明瞭化
  • MRI拡散強調画像・ADCで広範な低酸素性虚血性脳症
  • SSEPで両側N20消失
  • 脳波でburst suppressionや難治性てんかん重積
  • 両側瞳孔対光反射消失
  • 両側角膜反射消失
  • NSEやNfLなど神経バイオマーカー高値

ただし、これらも単独では判断せず、画像、神経診察、電気生理、脳波、バイオマーカーを組み合わせて評価します。

研修医が覚えるべき実践的まとめ

  1. 反応なし+正常呼吸なしなら心停止を疑い、ただちにCPRを開始する
  2. 胸骨圧迫は100〜120回/分、深さ5〜6 cm、完全リコイル、中断は最小限に
  3. 高度気道確保前は30:2。医療者は換気も行う
  4. VF/pVTは除細動が最優先。ショック後はすぐCPR再開
  5. Asystole/PEAは除細動ではなく、CPR+早期エピネフリン+原因検索
  6. エピネフリンは1 mgを3〜5分ごと。ショック適応波形では除細動を優先
  7. 難治性VF/pVTではアミオダロンまたはリドカインを考慮
  8. 心房細動・心房粗動の同期カルディオバージョンは初回200 J以上が望ましい
  9. ETCO₂は有用だが、単独でROSCや蘇生中止を判断しない
  10. ROSC後は酸素化、換気、循環、体温、血糖、神経予後評価を系統的に管理する

医学生・研修医の皆様には、これらのポイントを確実におさえ、いざという時の救命処置に役立てていただければと思います。

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