
doi: 10.1016/S2213-2600(25)00130-4. Epub 2025 Aug 22.
難治性院外心停止(OHCA)に対する救急現場からの迅速搬送が神経学的予後に与える影響について、最新のRCTの結果解説を以下にまとめます。
背景と目的
OHCA患者において、蘇生を継続しながら早期に病院搬送する戦略(迅速搬送)が、現場でより長時間の高度救命処置を実施した後に搬送する戦略(標準治療)と比べて有益かどうかは議論が続いています。これまで観察研究や限定的症例報告では一部の有効性が示唆されていましたが、搬送中のCPR質低下やEMS負担増も懸念材料でした。
研究デザイン
本研究は、オーストラリア・シドニー広域圏の15施設を対象とした前向き多施設共同ランダム化比較試験です。
- 対象:18〜70歳の目撃された医原性OHCAでバイスタンダーCPRが施行され、初期心調律がショック適応波形またはPEA。15分以上の高度救命処置後もROSC得られない症例
- 無作為化:現場で「迅速搬送群(心カテ室へ蘇生継続搬送)」または「標準治療群(現場蘇生継続後搬送)」へ1:1割り付け
- 主要評価項目:退院時の良好な神経学的転帰(CPCスコア1-2)を伴う生存率
- 追跡期間:死亡または6ヵ月まで
主な結果
- 登録患者:迅速搬送群102例、標準治療群95例、中央値年齢57歳、男性82%
- 退院時の良好な神経学的転帰を伴う生存率:迅速搬送群15%、標準治療群16%(リスク差-1.1%、調整後相対リスク0.95、p=0.87)で有意差なし
- 重篤な有害事象(AE)発現率:両群同等(19%)。92%が低酸素性脳障害、その他(脳卒中、肺出血、消化管出血)は標準治療群でわずかに発生
- その他の指標(6ヵ月生存、4週間生存、ETCO2値別検討等)でも両群に有意差なし
- ROSCや蘇生時の生命兆候のみが良好な転帰の有意な予測因子
解釈と臨床的意義
本研究により、難治性OHCA患者への迅速搬送は、現場での長時間蘇生と比べて良好な神経学的転帰を伴う生存率の有意な改善を示しませんでした。ただし以下の課題にも留意が必要です。
- 組織的・時間的制約(高次治療へのアクセス・搬送距離・リソースなど)により、搬送の速さや治療介入の最適化が十分に達成できていない場合が考えられる
- 治療効果の差が小さい可能性や症例数の不足による検出力不足もあり、今後さらなる大規模検討が必要
- 実践的には、各症例ごとの現場状況(搬送の可否、追加蘇生法、病院での高次治療資源可用性)を重視し、画一的プロトコルより個別判断が重要と考えられる
いかがでしたでしょうか?「ECMO目指して1分1秒でも早く搬送」すれば良い、ってワケでもないようです。上記の結果は、近年のハイパフォーマンスCPR(HP-CPR)、すなわち、迅速搬送よりも現場での胸骨圧迫率chest compression fraction;CCFを80%以上を目指す取り組みにつながっています。さらなる研究結果が待たれます。