抄読会・症例検討会

抄読会 #12 : V-V ECMOにおける送血位置と流量が再循環と酸素化に与える影響

皆様、V-V ECMO導入中に急激なSpO2低下を来して焦った経験はございますでしょうか?V-A ECMOでアラームが鳴り響く際は「脱血不良」がメインだったりするのですが…今回はV-V ECMOにおけるrecirculationに伴う酸素化不良について勉強しましょう。なお、本日題材とする以下の論文は臨床工学部の後藤技士長にご提供頂きましたありがとうございました!

V-V ECMOにおける送血位置と流量が再循環と酸素化に与える影響

研究の背景と目的

静脈-静脈体外式膜型人工肺(V-V ECMO)は、重症呼吸不全患者の治療に広く用いられています。しかし、V-V ECMOでは送血された酸素化血液が脱血カニューレに戻ってしまう「再循環」が問題となります。再循環は酸素化を不十分にし、治療効果を低下させる可能性があります。

再循環に影響を与える要因としては、カニューレの位置、バイパス流量、心拍出量、血管内容量の4つが挙げられます。このうち、カニューレの位置とバイパス流量は医療者が調整可能な能動的因子です。

本研究では、送血カニューレの位置とバイパス流量が再循環率と酸素化能にどのような影響を与えるかを動物実験で詳細に検討しました。これにより、V-V ECMOの効果的な運用方法を明らかにすることを目的としています。

実験方法

実験動物と準備

  • 8頭の成ヤギ(平均体重58.6±0.6 kg)を使用
  • ケタミン(10 mg/kg)で麻酔導入後、気管切開し人工呼吸管理
  • 左外頸静脈に薬剤投与用14Gカテーテルを挿入
  • 左外頸静脈からSwan-Ganzカテーテルを挿入し、先端を肺動脈に留置
  • 頸動脈に採血用14Gカテーテルを挿入
  • Vigileo MonitorとFloTrac sensorを用いて心拍出量を測定
  • 直腸温をモニタリングし、36.5±1.0°Cに維持

ECMO回路

  • ECMO system: Endumo 6000 (Heiwa Bussan)
  • 遠心ポンプ: ROTAFLOW (Maquet)
  • 回路: ヘパリンコーティング(TNCVC coating)
  • 人工肺: BIOCUBE 6000 (Nipro)
  • 充填液: 乳酸リンゲル液
  • カニューレ: 20Fr送血・脱血カニューレ(PCKC-V-20, Toyobo)

実験プロトコル

  1. 造影剤を用いて再循環を可視化

2. ベースライン条件の設定

  • 混合静脈血酸素飽和度を40±5%に調整
  • 安定後5分以上経過してから採血

3. 人工呼吸器を停止し、ECMOのみでの酸素化を評価

  • 人工肺には100%酸素を供給、V/Q比=1.0に設定
  • プロポフォール0.5 mL/kg/hで麻酔維持

4. 再循環率の測定

  • 脱血カニューレを下大静脈(IVC)に固定
  • 送血カニューレを上大静脈(SVC)、右心房(RA)、IVCの3か所に変更
  • バイパス流量を1-4 L/minで変化
  • 各条件で以下の公式を用いて再循環率を算出:
    再循環率 = (人工肺前酸素飽和度 - 混合静脈血酸素飽和度) / (人工肺後酸素飽和度 - 混合静脈血酸素飽和度)

5. 動脈血酸素飽和度(SaO2)と動脈血酸素分圧(PaO2)の測定

  • 各条件で20分間測定

結果

再循環の可視化

代表的な血管造影像を図2aに示します。SVCに送血カニューレを留置した場合、送血された血液の大部分は肺動脈方向に流れますが、一部が脱血カニューレに流入する様子が観察されました。バイパス流量が増加するにつれて、造影剤の濃度が濃くなり、再循環の増加が視覚的に確認できました。

再循環率の定量評価(図2b:論文でご覧ください)

  1. 全ての送血位置で、バイパス流量の増加に伴い再循環率が上昇
  2. IVC送血群で最も高い再循環率
  3. バイパス流量3-4 L/minでは、IVC送血群の再循環率がSVC・RA送血群より有意に高値(p<0.05)

血液酸素化(図3、4:論文でご覧ください)

  1. SaO2とPaO2:
  • 全ての送血位置で、バイパス流量の増加に伴い上昇
  • SVC > RA > IVCの順で高値

2. 適切な酸素化(SaO2 > 80%)を得るのに必要な流量:

  • SVC、RA: 2 L/min以上
  • IVC: 3 L/min以上

3. PaO2の比較(バイパス流量4 L/min、20分後):

  • SVC: 162.9±16.6 mmHg
  • RA: 139.0±11.5 mmHg
  • IVC: 77.0±9.2 mmHg
  • SVCとIVCの間で有意差あり(p<0.01)

二酸化炭素除去(図4:論文でご覧ください)

  1. PaCO2:
  • 1 L/min以外の流量で、バイパス流量増加に伴い低下
  • SVC・RA送血で2 L/min以上、IVC送血で3 L/min以上で正常範囲に近づく

2. pH:

  • 3 L/min以上、20分後で正常範囲に近づく

3. 送血位置による有意差なし

測定条件

  • 平均ヘモグロビン: 9.8±0.1 mg/dL
  • 平均心拍出量: 4.9±0.1 L/min
  • 各条件間で有意差なし

考察

再循環について

  1. 送血位置の影響:
  • SVCが最も再循環が少ない
  • 脱血カニューレとの距離が影響している可能性

2. バイパス流量の影響:

  • 流量増加に伴い再循環率も上昇
  • しかし、酸素化能の向上がそれを上回る

二重腔カニューレ(DLC)との比較

  1. 先行研究での再循環率:
  • Wang et al.: 3.3±0.2% (2 L/min)
  • Körver et al.: 2% (4.3 L/min)

2. 本研究との差異:

  • DLCの方が再循環率は低い傾向
  • 送血ポートの向きの違いが影響か
    • DLC: 三尖弁方向
    • 本研究: 脱血カニューレと対向

酸素化能について

  1. ELSO guidelineの基準(SaO2 > 80%)を満たす条件:
  • SVC・RA送血: 2 L/min以上
  • IVC送血: 3 L/min以上

2. 先行研究との比較:

  • Wang et al.: ほとんどの患者で2 L/minが必要
  • 本研究結果と一致

3. Schmidt et al.の報告:

  • 心拍出量/バイパス流量比が低下するほど酸素飽和度が上昇

二酸化炭素除去について

  1. 正常PaCO2を得るのに必要な流量:
  • SVC・RA送血: 2 L/min以上
  • IVC送血: 3 L/min以上

2. 1 L/minでのPaCO2上昇:

  • V/Q比を1から3、5に上げると低下(n=1)
  • スイープガス流量と人工肺表面積の影響

3. 今後の課題:

  • 二酸化炭素除去に関するさらなる検討が必要

本研究の限界

  1. 測定時間:
  • 各条件20分間のみ
  • より長時間の測定でPaO2上昇、PaCO2低下の可能性

2. ベースライン条件:

結論

  • 混合静脈血酸素飽和度40±5%に設定
  • この設定がSaO2、PaO2、PaCO2の変化に影響した可能性
  1. 送血カニューレの最適位置: SVC
  2. バイパス流量:
  • 高流量ほど再循環は増えるが、それ以上に酸素化能が向上
  • 患者の状態に応じて適切な流量設定が必要

3. 効果的な酸素化のためには、送血位置とバイパス流量の両方を考慮する必要がある

臨床への応用

この研究結果は、V-V ECMO管理において以下の点で参考になります:

  1. 送血カニューレ挿入時、可能であればSVCを第一選択とする
  2. 酸素化不十分な場合、流量を上げることを検討する
  3. IVCへの送血では、より高流量が必要となる可能性を念頭に置く
  4. 再循環を最小限に抑えつつ、十分な酸素化を得るバランスを考慮する
  5. パルスオキシメータやECMO回路内の酸素飽和度測定器を用いて、常時モニタリングを行う

ただし、この研究は動物実験であるため、人間への直接的な適用には注意が必要です。実際の臨床では、患者の個別の状態や解剖学的特徴を考慮しながら、この知見を参考にすることが大切です。

また、日本ではまだ承認されていませんが、諸外国で使用されている二重腔カニューレ(DLC)は再循環が少ないとされています。今後、日本でもDLCが使用可能になることが期待されます。

V-V ECMOの管理は複雑で、常に最新の知見を取り入れながら、個々の患者に最適な治療を提供することが求められます。本研究の結果が、より効果的なV-V ECMO管理の一助となることを期待しています。

-抄読会・症例検討会