抄読会・症例検討会

心不全診療ガイドライン2025年版改訂のポイント

 2025年版の心不全診療ガイドラインが日本循環器学会および日本心不全学会より発表されました。心不全患者数の増加は深刻な問題であり、最新の知見に基づいた診療指針の理解は極めて重要です。このガイドラインは300ページを超える包括的な内容ですが 、ここでは医学生・研修医の皆さんに向け、主な改訂ポイントを要約します。  

ガイドライン改訂の主要ポイント

今回の改訂では、以下の点が主要な変更点・追加点として挙げられます

  1. 名称の変更: 急性期・慢性期の区別が困難であること、また急性期から慢性期への切れ目のない治療の重要性を鑑み、従来の「急性・慢性心不全診療ガイドライン」から「心不全診療ガイドライン」へと名称が変更されました
  2. 定義・ステージ分類の改訂:
    • 「Universal definition and classification of heart failure」に基づき、定義・分類が改訂されました
    • 心不全への進展予防や早期介入の重要性から、ステージA(心不全リスク)、ステージB(前心不全)の記載が充実し、特にステージAには慢性腎臓病(CKD)が加えられました
  3. 薬物治療 (GDMT: Guideline-directed Medical Therapy) のアップデート:
    • 2021年のフォーカスアップデート以降の知見に基づき、HFrEF (LVEF低下)、HFmrEF (LVEF軽度低下)、HFpEF (LVEF保持) それぞれの薬物治療推奨が更新・追加されました
    • 特にHFmrEF/HFpEFに対するSGLT2阻害薬、MRA(フィネレノン)の推奨が追加されました
    • 肥満合併心不全に対するインクレチン関連薬(GLP-1受容体作動薬等)の推奨が追加されました  
    • 日本で保険適用外の薬剤についても、将来的な情報として記載されています  
  4. 特定の心筋症に関する記載の充実・追加:
    • 治療の進歩が著しい肥大型心筋症、心アミロイドーシス、心臓サルコイドーシスについて最新の知見が追加され、マバカムテン、プトリシラン、アコラミジスなどの新規治療薬の推奨が加わりました  
    • 特別な病態・疾患として、心房心筋症、中性脂肪蓄積心筋血管症(TGCV)、高齢者/フレイル、腫瘍循環器に関する項目が新たに追加されました  
  5. 診断・評価方法の追加:
    • 遺伝学的検査、ADL/QOL評価(患者報告アウトカム: PROを含む)、リスクスコアに関する項目が新たに追加され、推奨が記載されました
  6. 疾病管理と地域連携:
    • 地域連携・地域包括ケアに関する章が新設されました
    • デジタルヘルスや社会復帰・就労支援に関する記載が追加されました  
  7. 急性非代償性心不全 (ADHF) の管理:
    • 心不全増悪(worsening heart failure: WHF)と非代償状態(decompensation)の定義が追加されました  
    • 非代償期から代償期への移行期の管理に関する知見・推奨が新たに追加されました
  8. リハビリテーション:
    • 急性期の運動療法・リハビリテーションに関する記載が追加され、心不全リハビリテーションに関する包括的な記述と推奨が行われました  
  9. 併存症管理の充実:
    • 慢性腎臓病(CKD)、肥満、貧血・鉄欠乏、抑うつ・認知機能障害に関する記載および推奨が追加されました  
  10. 医療の質評価:
    • 欧米のガイドラインに準じ、心不全診療における医療の質評価に関する章が新設されました
  11. 市民・患者への情報提供:
    • 一般市民・患者向けの解説章が追加されました
  12. クリニカルクエスチョン (CQ) とエビデンスギャップ:
    • 重要な臨床課題に関するCQと、エビデンスが不足している領域(エビデンスギャップ)に関する記載が追加されました  

まとめ

今回のガイドライン改訂は、心不全の定義から診断、治療、管理に至るまで多岐にわたります。特に、ステージ分類の明確化新しい薬物治療(SGLT2阻害薬、ARNI、新規MRA、心筋ミオシン阻害薬など)の位置づけ、併存症管理の重要性多職種連携や患者中心のケア(緩和ケア、ACP含む)の推進が強調されています。

医学生・研修医の皆さんは、これらの改訂点を踏まえ、日々の学習や臨床に役立ててください。詳細については、ガイドライン本文 をご参照ください。

-抄読会・症例検討会