日本アレルギー学会は2026年10月30日、アナフィラキシーガイドライン2022(2026年改訂版)を発行しました(ネフィー承認記事はこちら)。
今回の改訂は、主に次の3点です。
- アドレナリン自己点鼻液 ネフィー® の追加
- 死亡事例や学校での有病状況などの疫学情報の更新
- 周術期アナフィラキシーの原因薬剤・医療材料に関する知見の追加
一方で、「疑ったら迷わずアドレナリン」という初期対応の原則は変わっていません。 本記事では、改訂点と、変わらない基本を分けて整理します。

改訂点の比較表
| 改訂領域 | 2026年改訂版で追加・更新された内容 | 医学生・研修医が押さえたい点 |
|---|---|---|
| アドレナリン自己投与薬 | 自己注射薬(エピペン®)に加え、自己点鼻液(ネフィー®)の使い方・指導・概要の章が新設された | 院外で自己投与する薬の選択肢が増えた。医療機関での第一選択は、これまでどおりアドレナリン筋注 |
| 国内臨床試験 | ネフィー®の国内第Ⅲ相試験の結果を掲載。対象は食物アレルギーのある6〜17歳の15例 | 主症状の改善は73.3%、症状消失までの中央値は16分。ただし、小規模・非盲検・非比較試験である |
| 死亡事例の分析 | 医療事故調査・支援センターの2018年報告(12例)に加え、2025年報告(19例)を掲載。19例の誘因はいずれも注射剤だった | 造影剤や抗菌薬など、院内で日常的に使う注射剤でも発症し得ると意識する |
| 死亡数の統計 | 人口動態統計に基づく死亡数を2014〜2024年分に更新 | 年間死亡数は50〜70人台で推移。原因の「詳細不明」が多い点にも注目する |
| 学校での有病状況 | 日本学校保健会の令和4年度調査に更新。アナフィラキシー既往は小学生0.7%、中学生0.5%、高校生0.5% | 小児では、救急外来での対応だけでなく、家庭や学校での再発時の備えも重要 |
| 周術期アナフィラキシー | 国内の前向き多施設研究と英国の大規模調査(NAP6)の知見を追加 | 発生頻度は全身麻酔約5,000例に1例。筋弛緩薬、抗菌薬、スガマデクスが主な原因として報告された |
| ラテックス | 近年の大規模調査では主要な原因として報告されていない、と追記 | ただし、ラテックスアレルギーが既知または疑われる患者では、引き続き曝露を避ける |
1.ネフィー®:自己投与の選択肢が増えた
今回の改訂でもっとも大きな変更点は、アドレナリン自己点鼻液ネフィー®の掲載です。ガイドラインの初期対応フローでも、院外ではアドレナリン自己投与薬としてエピペン®またはネフィー®を使用すると記載されています。 使用時のポイントは、ノズルを鼻腔の内側・外側の壁に向けず、鼻の奥へまっすぐ向けることです。また、噴霧中や噴霧後に鼻をすすらないよう指導します。

臨床試験の数字は、条件とあわせて読む
国内第Ⅲ相試験では、食物経口負荷試験で誘発された「グレード2以上」の症状に対してネフィー®を投与しました。用量は体重15kg以上30kg未満で1mg、30kg以上で2mgです。
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 主症状の改善(主要評価項目) | 11/15例(73.3%) |
| 症状消失までの時間 | 中央値16分 |
| 初回反応に対する2回目のアドレナリン投与 | 0例 |
| 二相性反応 | 1例(投与2時間45分後。アドレナリン筋注で治療) |
| 2例以上にみられた有害事象(負荷試験で誘発された事象を除く) | 振戦3例、鼻粘膜障害2例 |
| 重篤な有害事象・死亡 | なし |
ここで注意したいのは、
「改善」とは主症状のグレードが1段階以上下がることを指し、症状の完全消失ではない
という点です。 また、この試験は小児15例を対象とした非盲検・非比較試験です。そのため、この結果だけで、筋注との同等性や、成人の重症ショックに対する効果まで判断することはできません。
二相性反応がみられた症例があったことからもわかるように、自己投与で症状が改善しても、医療機関での評価と経過観察は必要です。二相性反応は成人の最大23%、小児の最大11%に起こるとされ、その約半数は最初の反応から6〜12時間以内に出現します。
2.疫学の更新:危険は院内の日常診療にもある
2025年報告で分析された死亡19例の内訳は、造影剤9例、抗生物質製剤7例、抗悪性腫瘍薬1例、蛋白分解酵素阻害薬1例、血漿分画製剤1例でした。 これは医療事故として報告された事例の分析であり、国内のアナフィラキシー全体における原因の割合を示すものではありません。それでも、研修医が日常的に関わる造影検査や抗菌薬投与こそ注意が必要であることを示しています。
ガイドラインでは、次の点が示されています。
- 以前に安全に使用できた薬剤でも、アナフィラキシーを起こし得る
- 発症の危険性が高い薬剤を静脈内投与する際は、少なくとも投与開始から5分間、注意深く観察する
変わらない基本:初期対応の5原則
- 皮疹がなくても疑う。 既知のアレルゲンなどへの曝露後に、血圧低下、気管支攣縮、喉頭症状が急速に出現した場合は、典型的な皮膚症状がなくても診断し得ます。
- 第一選択はアドレナリン筋注。 0.1%アドレナリン(1mg/mL)を0.01mg/kg、大腿中央部の前外側に筋注します。最大量は成人0.5mg、小児0.3mgで、必要に応じて5〜15分ごとに再投与します。
- 心停止または心停止に近い状態以外で、静注は推奨されない。 静注は不整脈や高血圧などの有害作用を起こす可能性があります。
- 抗ヒスタミン薬やステロイドは、アドレナリンの代わりにならない。 抗ヒスタミン薬は気道閉塞やショックを改善しません。ステロイドは作用発現に数時間かかります。
- 急に座らせたり、立たせたりしない。 原則は仰臥位です。体位変換をきっかけに急変することがあります(empty vena cava / empty ventricle syndrome)。
まとめ
2026年改訂版では、院外での自己投与の選択肢が広がり、院内で起こり得る薬剤性アナフィラキシーへの注意喚起も強化されました。 一方で、早く気づき、迷わずアドレナリンを筋注するという原則は変わりません。新しい薬剤を学ぶときも、まずはこの基本を確実に身につけておきましょう。