抄読会・症例検討会

抄読会#36:【救急・集中治療における生命維持治療の終了/差し控えに関する4学会合同ガイドライン】~医学生・研修医のための入門解説~

 2014年(平成26年)に日本集中治療医学会・日本救急医学会・日本循環器学会の3学会が発表した旧ガイドライン(「救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン」)から10年以上が経過し、今回、新たに日本緩和医療学会が参加した4学会による大幅改訂版として令和8年9月に公開されました。ザックリどういう内容なのか、以下ご参考になれば幸いです。

1. 旧ガイドラインの3つの問題点

問題① 「終末期」の定義が厳しすぎた

旧ガイドラインでは「適切な治療を尽くしても救命の見込みがない」と定義していた。しかし現代の生命維持治療の発達により、装置を使い続けさえすれば生命を維持できるケースが増え、この定義では実質的に当てはまらない状況が多発していた。

問題② 生命維持治療終了後の緩和ケアの具体的指針がなかった

「緩和的措置を行う」とは書かれていたが、実際にどのような薬剤をどのように使うべきか具体的に示されていなかったため、現場では「終了後にどう動けばいいか分からない」という問題が起きていた。

問題③ 「一度始めたらやめられない」という心理的障壁が残っていた

法的懸念や倫理的誤解により、「一度挿管したら抜管できない」という誤解が広まり、本来助けられたはずの患者に対して初期治療の開始そのものが躊躇される本末転倒な状況が生じていた。

2. 新ガイドラインの3本柱

① 「終末期」を定義しない

新ガイドラインは「終末期かどうか」という二分法をやめ、患者にとって最善の治療・ケアのゴールをプロセスとして検討することを重視しています。

ガイドラインの理念: 「どんな状況で終了を考えるか」ではなく、「どのようなプロセスを踏むか」に焦点を当てる。個々の患者の価値観と状況に応じて、多職種チームと患者・家族が対話を重ねることを重視する

② 意思決定の2段階プロセス(SDM)

生命維持治療の終了・差し控えに関する判断は、以下の2段階のプロセスで行います。

Step 1 医療・ケアチームによる 臨床倫理的検討Step 2 患者・家族等との 共同意思決定(SDM)
Jonsenの4分割法で検討:
① 医学的側面(診断・予後)
② 患者の意向(ACP・推定意思)
③ QOL(患者の大切にすること)
④ 周囲の状況(家族・社会的背景)
厚労省プロセスガイドラインに準拠:
i. 患者の意思が確認できる場合
ii. 意思は不明だが推定できる場合
iii. 意思の推定も困難な場合
iv. 身寄りがない場合

③ 期限付き治療試行(Time-Limited Trial; TLT)

今回の改訂で明記された重要な概念です。「一度始めたら終われない」という心理的障壁を取り除くために導入されました。

TLTとは:医療・ケアチームと患者・家族等が合意のうえで「期間を設定」して治療を試行し、その効果を評価してから継続・変更・終了を判断するプロセス
(例)7日間の人工呼吸器管理を行い、回復状況・合併症の有無を評価する

注意点: TLTは「期限が来たら自動終了」ではない。期限ごとに必ず立ち止まって多職種で再評価する。あらかじめ「何を目標とするか」「何をもって再評価するか」を患者・家族と共有しておくことが必須。曖昧なまま延長し続けることは、延命の先延ばしや意思決定の先送りにつながり、本ガイドラインの趣旨に反する

3. 緩和ケア別編:症状緩和の実際

今回新設された「緩和ケア別編」では、生命維持治療終了後の具体的な症状緩和指針が示されました。医学生・研修医が押さえておくべきポイントを紹介します。

緩和ケアはいつ開始する?

緩和ケアは「生命維持治療を終了してから始める」ものではない。救急搬送・ICU入室の早期から、救命治療と並行して提供されるべきもの。「救命」と「緩和ケア」は対立しない。

終了後の主要症状と代表的な薬剤

人工呼吸器終了後に出現しうる症状(呼吸困難・疼痛・不安・せん妄・気道分泌物)への対応薬剤をまとめます。

症状薬剤初期投与量(静脈内)効果発現
呼吸困難・疼痛モルヒネ2〜5 mg ボーラス2.5〜5分
呼吸困難・疼痛フェンタニル20〜50 μg ボーラス1〜2分
不安・せん妄ミダゾラム0.01〜0.06 mg/kg1〜2分
せん妄ハロペリドール2.5〜5 mg3〜20分
気道分泌物ブチルスコポラミン20 mg 皮下/筋注30分

薬物使用の3原則(必ず覚える)
1. 必要十分量を投与:過少(苦痛が残る)も過量(不適切な深鎮静)も避ける
2. ボーラス・ファースト:呼吸困難・疼痛にはオピオイドのボーラス投与を優先(効果発現が早く蓄積リスクが低い)
3. オピオイドに上限なし:症状が緩和されるまで、症状に合わせて増量する(ただし効果のないまま増量しない)

抜管の2つの方法

Gradual Weaning(段階的離脱)Immediate Extubation(即時抜管)
15〜30分かけて呼吸補助を段階的に減らしてから抜管する → 呼吸不全で高度サポートが必要な患者に多い呼吸器設定を下げずに、鎮静・鎮痛準備をしたうえで抜管する → 脳神経疾患等による意識障害がある患者に多い

4. コミュニケーション・スキル

ガイドラインでは、患者・家族との話し合いに役立つコミュニケーションフレームワークが紹介されています。

NURSE感情の表出を促すコミュニケーション技法
Name(命名)・Understand(理解)・Respect(承認)・Support(支持)・Explore(探索)
SPIKES悪い知らせを伝えるための6ステッププロトコル
REMAP治療・ケアのゴールを話し合うためのフレームワーク

5. 法的側面とよくある誤解

よくある誤解
「生命維持治療を終了すると患者を見捨てることになる」
「差し控えは許されても、終了は許されない」
「ガイドラインに沿っていれば絶対に法的問題はない」
「DNAR指示があればすべての治療を止めてよい」

正しい理解
適切なプロセスを経た終了は「患者の最善」を目指す行為
差し控えと終了は倫理的に同等(国際的に同義とされる)
2007年以降、適切なプロセスを経た事例で刑事問題は報告ない
DNARは「心停止時に心肺蘇生を行わない」という限定的指示

記録の重要性
意思決定プロセスのすべて(説明内容・患者の意向・チームの検討・合意内容)を診療録に適切かつ明瞭に記載することが必須です。記録こそが、医療の倫理的妥当性を担保します

6. 研修医・医学生が押さえるべき5つのポイント

① SDMはプロセス(結論ではない)
患者・家族と医療チームが繰り返し対話を重ねるプロセス全体が重要。「合意に至ること」だけを目標とするのではなく、対話の質を高めることが本質。

② 一度始めた治療はやめられる(TLT)
「一度挿管したら抜管できない」は誤り。期間を設定して治療効果を評価し、継続・変更・終了を柔軟に検討する。これにより、救命可能な患者への適切な初期治療も躊躇なく開始できる。

③ 緩和ケアは早期から・救命と並行して
緩和ケアは「最後の手段」ではない。救急搬送直後から疼痛・不安・呼吸困難などに対応することが、治療の質にも直結する。

④ 記録が正当性を守る
多職種での臨床倫理的検討の内容、患者・家族等との話し合いの経過、意思確認の経緯をすべて診療録に記載する。これは将来の自分を守ることにもなる。

⑤ 医療者自身のケアも重要 生命維持治療の終了に関わることは医療者にも大きな心理的負担をもたらす。モラルディストレス・共感疲労・バーンアウトへの組織的サポート体制が必要であることを認識しておく。


いかがでしょうか?プロセスが大事だなぁとは、しみじみ思うことがあります。本文・Q&A他、ダウンロードして是非ご一読ください。

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