抄読会・症例検討会

抄読会 #10:「熱中症診療ガイドライン2024」

背景と目的

 熱中症は、特に夏季において多くの人々に影響を与える深刻な健康問題です。この度、日本救急医学会から熱中症の予防、診断、治療に関する最新のエビデンスを提供するため新たな熱中症ガイドラインが公開されました。本ガイドラインは、医療従事者が実地での臨床判断に役立つ情報を提供し、熱中症の予防と治療に貢献することを目的としています→学会HP該当ページはこちら。是非ご一読ください。概要を以下に示します。

熱中症診療ガイドライン 2024 - 新しいポイント

1. 重症度分類の変更

  • IV度の追加: 新たに「IV度」が導入され、最重症群として定義された。IV度は深部体温が40.0℃以上かつGCS(グラスゴー昏睡尺度)が8以下の患者と定義され、重症度に応じた適切な治療がより明確となった。

IV度の導入は重症熱中症に対する治療の緊急性と重要性を改めて認識させるものであり、初期対応の遅れが予後を大きく左右することを示唆している。

2. 治療法の強化

  • Active Cooling(積極的冷却法): 積極的な身体冷却をActive Coolingと定義し、Passive Coolingと区別する。
  • Active Coolingには、従来の冷却法(冷水浸水、蒸散冷却、胃洗浄、膀胱洗浄、局所冷却など)に加え、血管内冷却や体外式膜型人工肺などの新たな冷却法も含まれる
  • 重症例にはActive Coolingを含む集学的治療を推奨するが、個別の冷却法の推奨はない。
  • 冷却目標: 目標体温を38.0℃と設定し、冷却速度を0.15℃/分以上とすることが推奨。これにより、過冷却を防ぎつつ迅速な体温低下を目指す。

冷却は単なる対処療法ではなく、生命予後や神経学的後遺症に直接影響する重要な治療である。用語が変更され、「体内冷却」「体外冷却」「血管内冷却」→「Active Cooling」、「冷所での安静」→「Passive Cooling」となった。

3. バイオマーカー:病態把握と治療戦略への活用

熱中症の病態は複雑であり、臓器障害や炎症・凝固反応の評価にはバイオマーカーが有用となる。本ガイドラインでは、AST、ALT、BUN、Crなどの一般的な検査項目に加え、HMGB-1やNGALといった新たなバイオマーカーの活用も検討されている。バイオマーカーは、熱中症の病態を多角的に評価し、個々の患者に合わせた最適な治療戦略を立てる上で重要なツールとなりうる。

4. 小児の熱中症:注意すべきポイント

小児の熱中症は、早期発見・早期治療が重要であり、保護者や周囲の大人の意識向上が不可欠である。小児は体温調節機能が未発達であり、熱中症のリスクが高い。特に乳幼児は、自分で水分補給ができないため、周囲の大人が注意深く見守る必要がある。また、小児の熱中症では、腋窩温よりも深部体温での評価が推奨されている。

重症度分類

熱中症の重症度は以下の4段階に分類:

  • I度: 軽度の症状(めまい、立ちくらみなど)
  • II度: 中等度の症状(頭痛、吐き気、筋肉痛など)
  • III度: 重度の症状(意識障害、肝臓や腎臓の障害など)
  • IV度: 最重度の症状(深部体温が40℃以上、意識レベルが低い)

治療方法

積極的冷却法(Active Cooling)

重症熱中症患者には、以下の積極的冷却法が推奨:

  • 冷水浸水(Cold water immersion): 冷水に浸かることにより、迅速に体温を下げます。冷却速度は毎分0.20〜0.35℃とされます。
  • 蒸散冷却(Evaporative plus convective cooling): 体に水をかけて扇風機で風を当てる方法。
  • 胃洗浄(Cold water gastric lavage): 冷水を用いた胃洗浄。
  • 膀胱洗浄(Cold water bladder irrigation): 冷水を用いた膀胱洗浄。
  • 局所冷却(Ice packs): 氷嚢を用いて局所的に冷却。
  • 血管内体温管理療法(Intravascular Temperature Management): サーモガードシステム™等の体温管理器機を用いる方法

軽症例はPassive Coolingと水分・電解質補給で改善が見込めるが、改善が乏しい場合はActive Coolingを検討する。

冷却の目標

  • 目標体温: 38.0℃を目標に設定し、迅速かつ効果的な冷却を行う。
  • 冷却速度: 冷却速度を0.15℃/分以上とすることが推奨。

輸液と経口補水

初期輸液

  • 適正な初期輸液量: 熱中症患者への適正な初期輸液量の目安は明確ではなく、今後の研究が必要。

経口補水液(ORS)

  • ORSの有用性: 熱中症の治療において、特定のORSが有用かについては十分なエビデンスがなく、今後の研究が期待される。

予防とリスク管理

暑熱順化

  • 暑熱順化の有用性: 暑熱順化が熱中症の発症および重症化リスクの減少に有用である可能性があるものの、エビデンスは不足している。

WBGT(暑さ指数)

  • WBGTの有用性: 熱中症の発症リスク判定にWBGTが有用とされているが、RCTによる検証は未だない。

今後の課題

  • 研究の必要性: 熱中症に関するエビデンスは依然として不足しており、特に重症度判定や予後予測に関する研究が必要。
  • ガイドラインの更新: 最新のエビデンスに基づき、定期的なガイドラインの見直しが必要。

本ガイドラインは、医療従事者が熱中症患者に対して適切な診断と治療を行うための指針を提供し、熱中症の予防と治療に貢献することを目指しています。改訂された本ガイドラインをもとに、クソ暑い夏を乗り切りましょう!

-抄読会・症例検討会