抄読会・症例検討会

「法的脳死判定マニュアル2024と質疑応答書」の解説

はじめに

2024年に改訂された「法的脳死判定マニュアル」は、臓器移植医療の現場で脳死判定を円滑かつ適切に実施するための最新の指針です。本記事では、2025年6月発行の「法的脳死判定マニュアル2024に関する質疑応答書」の解説、現場でよく問われるポイントや実際の運用上の注意点をわかりやすくまとめます。医学生・研修医の皆さんが脳死判定の理解を深め、適切な医療実践につなげる一助となれば幸いです。

法的脳死判定マニュアル2024のポイント

1. 脳死とされうる状態の判断

  • 脳死とは「自発呼吸が消失し、脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止した状態」と定義されます。
  • 判定には深昏睡、瞳孔散大固定・脳幹反射の消失、平坦脳波(ECI)、自発呼吸の消失(無呼吸テスト)などが必須です。
  • 7項目の脳幹反射(対光・角膜・毛様脊髄・眼球頭・前庭・咽頭・咳反射)は、可能な限り全て確認します。眼球損傷等で一部確認不能な場合は、脳血流検査による補完が認められています。

2. 判定の手順と補助検査

  • 判定は2名以上の専門医(臓器移植に関与しない)が担当し、6歳以上は6時間、6歳未満は24時間以上の間隔を空けて2回実施します。
  • 判定医のうち1名は遠隔判定も可能ですが、倫理委員会での選定や情報開示義務があります。
  • 判定不能項目がある場合は「判定不能」と明記し、理由を備考欄に記載します。
  • 補助検査(脳血流検査やABR)は判断に迷う場合に「望ましい」とされますが、必須ではありません。

3. 無呼吸テストの実施

  • 無呼吸テストは脳死判定の最後に行い、PaCO2が60mmHg以上でも自発呼吸がなければ陽性とします。
  • ECMO装着患者でも無呼吸テストが可能となり、sweep gas流量調整や2部位採血(VA-ECMO)など特有の手順が追加されています。
  • 無呼吸テスト開始・終了時刻は必ず記録し、カルテ記載します。

4. 判定に必要な前提条件・除外例

  • 器質的脳障害が確実に診断され、適切な治療を尽くしても回復の見込みがないことが前提です。
  • 除外例には急性薬物中毒、低体温、代謝・内分泌障害、年齢・血圧基準未達、虐待事例(18歳未満)などが含まれます。

5. 記録書類と電子署名

  • 法的脳死判定記録書は省令に則った内容で、電子署名も法令の要件を満たせば使用可能です。
  • 脳波記録などはデジタルデータ保存が推奨されます。

質疑応答書で明確になった実務上のポイント

脳幹反射・補助検査・判定順序

  • 7項目の脳幹反射は「できる限り全て」確認。特別な理由がなければ省略不可。
  • 補助検査(脳血流検査・ABR)は「望ましい」扱いで、必須ではないが診断確実性向上のため推奨。
  • 判定順序は「深昏睡→瞳孔散大固定・脳幹反射消失→平坦脳波→無呼吸テスト」。補助検査は無呼吸テスト前に実施。

記録・家族同意・署名

  • 家族の立ち合いは必須記載事項ではなく、集計も行われていません。
  • 判定不能項目は理由を備考欄に明記。
  • 電子署名は「電子署名及び認証業務に関する法律」等に準拠し、セキュリティ基準を満たす必要があります。

転院搬送・施設条件

  • 臓器提供を目的とした転院搬送は原則不可ですが、高度治療目的の転送は例外的に認められています。
  • 判定医の遠隔判定は、現段階では「支援」的な位置づけであり、正式な判定医としての法的位置づけは今後整理が必要。

無呼吸テスト・バイタル管理

  • 無呼吸テスト前のPaCO2は「35~45mmHgが望ましい」
  • 無呼吸テスト中の採血タイミングは施設判断でよく、厳密な時刻指定はありません
  • 無呼吸テスト中の血ガスやバイタルはカルテに記録、記録書には開始・終了時刻のみ必須

よくある質問(抜粋)

質問回答
脳幹反射は7項目すべて必須?可能な限り全て確認。不可の場合は補助検査で補完。
補助検査はいつ実施?無呼吸テスト前に実施。
判定医の遠隔判定はどこまで認められる?現状は支援的役割。正式判定医としての法的位置づけは今後整理。
電子署名はどのように扱う?法令・ガイドライン準拠のシステムを使用。
記録書の保存は?デジタルデータ保存推奨。紙記録も条件付きで可。

まとめ

法的脳死判定マニュアル2024および質疑応答書は、判定手順の厳格化と現場の柔軟な運用を両立させるために改訂されました。医学生・研修医の皆さんは、判定の根拠となる各検査の意義と手順、記録や家族同意の扱い、最新の運用上の注意点を理解し、現場での適切な対応を心がけてください。今後も法令・ガイドラインの改訂やエビデンスの蓄積により、内容が更新される可能性があるため、最新情報の継続的な確認が重要です。


参考資料

  • 法的脳死判定マニュアル2024
  • 法的脳死判定マニュアル2024に関する質疑応答書(第1版 令和7年6月)
  • 法的脳死判定記録書および確認事項集

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