令和6年11月23日(土)、むつ総合病院において青森県原子力災害医療訓練が実施されました。本訓練は、
東北電力東通原子力発電所での原子力災害を想定し、多数の傷病者の受入・処置を円滑に行うための実践的な受援訓練
として企画されました。
訓練の背景と目的
近年、自然災害と原子力災害の複合災害への対応が重要視されています。特に能登半島地震の教訓から、下北半島においても同様の地震・津波による道路寸断のリスクが認識され、地域における災害医療体制の整備が急務となっています。今回の訓練は、
道路寸断により青森市と八戸市の原子力災害拠点病院への搬送が困難な事態を想定し、むつ総合病院での受入体制を確認する初めての機会
となりました。

訓練監修者からのコメント
弘前大学災害・被ばく医療教育センターの伊藤勝博教授は、本訓練の意義について以下のように述べています:
「能登半島地震の教訓を踏まえると、下北半島においても道路寸断などが現実的な懸念事項となっています。そのような状況下では、むつ総合病院での診療対応が必要となることから、今回の訓練を実施しました。実際の訓練を通じて、屋外で活動する医療チームの手指が寒さで硬直し、診察に支障をきたすという新たな課題も明らかになりました。この経験を活かし、寒冷地特有の対策を講じていく必要があります。」
訓練概要
- 日時:令和6年11月23日(土)9:00-13:00
- 場所:むつ総合病院
- 参加機関:12団体
- 参加人数:約90人
- 想定:大規模地震・津波により東通原子力発電所で事故が発生し、道路寸断により原子力災害拠点病院への搬送が困難な状況

実施内容
初動対応訓練
- 青森県災害対策医療本部(仮想)との通信訓練
- 情報収集・伝達訓練
- 通信機器の運用確認
- 災害対策本部の立ち上げ訓練

医療対応訓練
屋外活動
- 被ばく汚染スクリーニング
- 放射性物質付着の確認検査
- トリアージの実施
- 患者情報の聞き取り
- 処置優先度の判定



室内活動
- 除染処置
- 応急処置
- 搬送手順の確認
- 放射性物質の除染作業
- 傷病者の状態確認と処置





多機関連携訓練
- 消防との連携による傷病者受入
- 原子力災害医療派遣チームとの協働
- 高度被ばく医療支援センターとの連携
- 北海道・宮城県からの医療チームとの連携
訓練で得られた成果
- 地域特性を考慮した実践的な対応手順の確認
- 寒冷地特有の課題の抽出(医療従事者の防寒対策等)
- 多機関連携における情報共有体制の確立
- 原子力災害時の医療提供体制の検証
- 広域医療連携体制の確認
今後の課題
即時的課題
- 寒冷環境下での医療活動における防寒対策
- 屋外活動時の手指機能維持対策
- 通信手段の更なる整備
- 医療資機材の適切な配置
- 防寒装備の充実
中長期的課題
- 若手医療者の育成・教育
- 定期的な訓練の実施体制の構築
- 地域防災計画との整合性確保
- 寒冷地特有の医療対応マニュアルの整備
- 広域医療連携体制の強化
参加機関一覧
医療機関連携
- 弘前大学(高度被ばく医療支援センター)
- むつ総合病院
- 青森県立中央病院
- 八戸市立市民病院
- 札幌医科大学附属病院
- 石巻赤十字病院
- 仙台医療センター

DMATは東北で50チームを超えますが、東北・北海道エリアでの原子力災害医療派遣チームは、大体これで全部です!むつ病院で図らずも顔合わせになりました。参集頂いた施設それぞれもう1チームくらい追加できるかもしれませんが、全部で10チーム弱…いざというときはよろしくお願いいたします!

その他関係機関
- 青森県
- 下北地域広域行政事務組合消防本部
- 東北電力
- 株式会社千代田テクノル
今後の展望
本訓練で得られた知見を基に、以下の取り組みを進めていく予定です:
- 寒冷地における医療活動マニュアルの整備
- 防寒対策を含めた装備の見直し
- 定期的な訓練プログラムの確立
- 若手医療者への教育プログラムの充実
- 広域医療連携体制の強化
おわりに
本訓練を通じて、下北半島における原子力災害時の医療体制の実効性向上に向けた貴重な知見が得られました。特に、地域特性を考慮した実践的な訓練の重要性が再認識され、今後の防災体制の強化に向けた具体的な課題が明確になりました。
引き続き、定期的な訓練実施と検証を通じて、地域の災害対応能力の向上を目指してまいります。特に、今回明らかとなった寒冷地特有の課題に対する対策を重点的に進めていく所存です。

(文責:弘前大学医学部附属病院 高度救命救急センター)