広報・インタビュー

石巻赤十字病院におけるオハイオ州立大学・海外視察実習講義、へのオブザーバー参加報告

題名が長いですが、ご報告です。

先日5月30日、石巻赤十字病院・研修センターにおいて、オハイオ州立大学生へ東日本大震災・災害医療活動(一部能登半島地震での活動も)に関する実習講義が行われました。石巻赤十字病院は原子力災害医療拠点病院であり、弘前大学は原子力災害医療・総合支援センターとして情報収集を目的にDonovan先生、水木さんと奈良岡先生の合計3名がオブザーバー参加いたしました。以下、奈良岡先生より詳細をお伝えします。


石巻赤十字病院:写真向かって右端の研修センターで講義実習が行われました

このオハイオ州立大学の視察実習プログラムは、オハイオ州立大学の学生が2週間日本に滞在して全国の被災地等を視察するもので、毎年開催(今回10回目)されているそうです。本年は2024年5月14日から5月31日までの約2週間にわたって開催され、その最終日の講義実習を見学させて頂きました

オハイオ州立大学視察実習プログラム概要

オハイオ大学と言えばアメフト!らしいです→出典

◆オハイオ州立大学 参加学生15名(neurosciences 4名+earth science 11名)+ 引率教員2名

 石巻赤十字病院 講師:植田先生(副院長),新田様,越智様,西條様ほか

 プログラムは講義、施設見学、被災地訪問を通じて、日本の災害医療や公衆衛生の現状を学ぶことを目的としています。参加者は、東京大学や麻布大学での講義やオリエンテーションから始まり、福島第一原子力発電所、東京消防庁本所防災館、広島平和記念資料館、水俣病資料館など、災害医療や公衆衛生に関連する様々な施設を訪問していました。かなりハードな日程です。プログラム最終日は、石巻赤十字病院にて東日本大震災の経験を踏まえた災害医療の講義後、震災遺構である大川小学校を訪問予定でした。

プログラム日程

  1. 5月15日(水)、16日(木)、17日(金): 東京大学や麻布大学での講義とオリエンテーション
  2. 5月20日(月): 福島第一原子力発電所の見学
  3. 5月21日(火): 災害医療に関する講義と東京消防庁本所防災館の見学
  4. 5月22日(水): 洪水や水俣病に関する講義
  5. 5月23日(木): 東京の地下調整池や焼却施設の見学
  6. 5月24日(金)〜26日(日): 富山イタイイタイ病記念館や広島平和記念資料館の見学
  7. 5月27日(月): 熊本城震災被害の見学
  8. 5月28日(火): 水俣病資料館の見学
  9. 5月30日(木): 石巻日赤病院にて東日本大震災講義と大川小学校の見学

研修先の主な都市

  • 東京
  • 福島
  • 富山
  • 広島
  • 熊本
  • 仙台・石巻

プログラムでは、災害医療や公衆衛生に関連する様々な施設の見学や講義が予定されており、日本の災害対策や医療システムについて学ぶ他、広島や水俣など歴史的に重要な場所も訪れるそうです。全体を通して、災害医療や公衆衛生について多角的に学べる充実した内容となっています。石巻赤十字病院ではプログラムの最終日30日に東日本大震災での活動・災害時の感染管理等について講義があり、学生からもたくさん質問が出ており大変有意義な講義を見学させていただきました。

全部英語の講義でした~オハイオの学生とても真面目
質問が止まりません…引率の先生が通訳しつつ参加していた日本人学生も質問兼通訳してくれました
ダンボールベッド・簡易トイレ・仮設テント実習…未だに能登では100基以上が稼働中!だそうです。左端Donovan先生が馴染んでました
東京オリンピックでも使われた素材ですパリ五輪でも採用されたとか…東日本大震災のときはありませんでした
ベッドで眠れる他に、立ち座りが楽というのもデカいそうです…学生の皆様には写真掲載の許諾を得ております
5人くらいは全然余裕…ビクともしません意外と堅牢です

講義は最初に東日本大震災の動画(石巻赤十字病院・東日本大震災初動の記録)の英語字幕バージョンが流れ(かなりグッときました)、その後災害医療の講義、災害医療体制、今なお改善されない問題点などの講義がありました。オハイオの学生はとても真面目で質問も多岐にわたっており、医療のみならず災害支援体制や管轄省庁・自治体の予算配分にまで訊かれて講師側が「え~っと…」と詰まる場面すらありました。とくに何回か質問されていたのが、

なぜFEMA(フィーマ;米国連邦緊急事態管理庁:Federal Emergency Management Agency)みたいな災害特化官庁が無いの???

でした。日本は特命大臣として「防災担当大臣」が置かれていますが、防災省とか緊急事態庁とかはありません。内閣府政策統括官(防災担当)が対応にあたりますご存知でしたか?この質問に対する講師の回答は「何回かFEMAみたいな組織の立ち上げを政府に上申したけど、取り合ってくれなかった…その背景として日本は現在に至るまで、基本的に省庁の新設は行わない方針みたいです」でした。

まぁ、一言でいえば予算無いんだろうなと。内閣府における防災担当人員は約100名未満(令和5年度)ですが、FEMAは7,000人超ですよ?予算規模も推して知るべしですそんな金がどこにあるのかと。日本は急速に増大する医療福祉予算を賄うので精一杯、日米では事情も違いますので日本は現状の予算と資源でやれることを最大限、はわかるのですが、来る首都直下型地震や東南海・南海地震への対応は大丈夫かなと少し心配になりました。

一方、石巻赤十字病院・日赤の活動規模は流石でした。能登DMATでも紹介しましたが、日赤は他の支援チームより一頭地飛び抜けて規模が大きいです。植田先生にも教えて頂きましたが、日本全国から合計580基の簡易トイレを能登へ集結・稼働させていたそうです(正確には、簡易トイレは石巻赤十字病院に置かれた災害医療ACT研究所が日本財団の資金提供をもとに被災地に設置)。徐々に撤収して日本全国で保管しているそうですが今なお100基程度が稼働中!とのことでした。能登半島地震から半年が経過しましたが、依然として輪島とか珠洲では水道設備が復旧していないことがわかります。

今後の展望

今回の研修プログラムの見学は非常に有意義な経験となりました。国際的な連携を深め、災害医療や公衆衛生の分野における人材育成、講義実習に関するノウハウの一端を知ることができました。今後は災害被ばく医療に関してもこのようなプログラムが望まれます。石巻赤十字病院の皆様、誠にありがとうございました。

追記:米国大学の単位について

Donovan先生がですね、「これ(オハイオ州立大学のプログラム)って、単位取れるんですか?(日本語で)」と随伴の先生に聞いてまして「もちろん単位取得できます、3単位です」との回答に「うおおー!スゲー!(意訳)」と狂喜乱舞していました。Donovan先生が単位もらえるわけではないのですが。3単位くらいどってこと無いだろ、と日本人なら思いますがそこはアメリカ、卒業するの大変らしいです。で、Donovan先生に

Is it quite difficult to get 3 credits at any university in the US?って訊きましたら、

Yes, it can be quite difficult to earn 3 credits at a university in the US, especially when compared to universities in Japan. In the US, the academic system often demands a significant amount of coursework, participation, and assessment, which can be rigorous. The Japanese university system is, I think, less demanding.

So, 3 credits for 3 weeks is a awesome deal especially if those credits are not general elective class credits, but credits toward your major. U.S and Japanese University systems are very different in course structure, workload, class participation, grading, etc... 

In U.S..1 credit is REQUIRED for: 15 hours of direct instruction (50-60 minute hours) and 30 hours of out-of-class student work (60-minute hours). 120-140 credits required for graduation. 

って、怒涛の解説でした。日程からすると結構値の張るプログラムだと思うのですが、専門3単位取れるならお得、と。いろんな世界があるんだなあと学んだ次第です。


奈良岡先生、ありがとうございました!石巻でのオブザーバー参加報告いかがでしたか?このオハイオ州立大学のプログラムでは後半1週間の日程そのものにオブザーバー参加することもできるそうです(費用は怖くて聞けなかったそうです)。IT全盛とはいえフィールドワークでしか得られない経験は貴重なのではないでしょうか。

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