救急・集中治療領域で最も馴染み深いスコアの一つであるSOFAスコアが、1996年の提唱以来、約30年ぶりに改訂され、2025年10月29日、JAMA誌にて「SOFA-2スコア」として公表されました。

doi: 10.1001/jama.2025.20516.
今回の改訂は、現在の集中治療(ECMO、RRT、複数の昇圧薬使用など)の実態を反映させることを目的としています。将来、救急・集中治療を志す皆さんが必ず触れることになるこの新スコアについて、主要な変更点をまとめました。
1. なぜ今、改訂が必要だったのか?
従来のSOFAスコアは、近年の人工呼吸器管理やECMO、持続的血液浄化療法(CRRT)といった「現代の臓器サポート」を十分に反映できていないという課題がありました。 SOFA-2は、9カ国1319施設、約330万例という膨大なICUデータを解析し、専門家の合意(Delphi法)を経て作成されました。検証の結果、死亡予測精度(AUROC 0.79)という高い信頼性が確認されています。
2. 臓器別・主な変更ポイント
従来の6臓器(脳・呼吸・循環・肝・腎・止血)の構成と最大24点の構造は維持されていますが、各項目の閾値や評価方法がより臨床に即したものへとアップデートされ、救急・集中治療の現場で即座に活用できるよう、ソースに基づいたSOFA-2スコアの重要事項一覧表と、評価の際の意思決定アルゴリズムを作成しました。
SOFA-2 スコア評価一覧表
現代のデバイス(ECMO、RRT、HFNCなど)や薬剤使用が統合された、新しい評価基準です。
| 臓器系 | 0点 | 1点 | 2点 | 3点 | 4点 |
|---|---|---|---|---|---|
| 脳 | GCS 15(または簡易応答可*) | GCS 13-14 またはせん妄治療薬の使用 | GCS 9-12 | GCS 6-8 | GCS 3-5 |
| 呼吸 | P/F > 300 | P/F ≦ 300 | P/F ≦ 225 | P/F ≦ 150 + 高度換気補助 | P/F ≦ 75 + 高度換気補助または ECMO |
| 循環 | MAP ≧ 70 | MAP < 70(昇圧薬なし) | 低用量昇圧薬使用 (≦0.2 μg/kg/min) | 中用量昇圧薬使用 (>0.2〜0.4 μg/kg/min) | 高用量昇圧薬使用 (>0.4)または 補助循環装置 |
| 肝臓 | Bil ≦ 1.2 | Bil ≦ 3.0 | Bil ≦ 6.0 | Bil ≦ 12.0 | Bil > 12.0 |
| 腎臓 | Cr ≦ 1.2 | Cr ≦ 2.0 または尿量 < 0.5 (6-12h) | Cr ≦ 3.5 または尿量 < 0.5 (≧12h) | Cr > 3.5 または尿量 < 0.3 (≧24h) | RRT施行または適応 |
| 止血 | Plt > 150 | Plt ≦ 150 | Plt ≦ 100 | Plt ≦ 80 | Plt ≦ 50 |
- 脳: サムズアップ、握り拳、ピースサインなどの簡易応答を含む
- 呼吸: 高度換気補助にはHFNC、NIV、CPAP、IMVが含まれる
- 循環: 昇圧薬用量はノルアドレナリンとアドレナリンの合計用量(base換算、μg/kg/min)。補助循環にはIABP、V-A ECMO、IMPELLAなどが含まれる
- 腎臓: RRT適応基準は、K≧6.0 または 代謝性アシドーシス(pH≦7.2かつHCO₃≦12)
評価アルゴリズム:ベッドサイドでの判断フロー
評価の際、特に迷いやすいポイントを整理したフローです。
STEP 1:欠損値の処理(初日 vs 経過中)
- ICU入室第1日目: 測定データがない項目は「0点(正常)」として扱う
- 入室2日目以降: データが欠落している場合、「前日の値を引き継ぐ(Last Observation Carried Forward)」を推奨
STEP 2:脳機能評価(特殊状況のハンドリング)
- 鎮静薬を使用しているか?
- YES → 鎮静開始直前のGCSを採用する(不明な場合は0点)
- せん妄治療薬(短期的・長期的問わず)を使用しているか?
- YES → GCSが15であっても自動的に「1点」とする
STEP 3:呼吸不全のデバイス評価
- P/F比(または代替のS/F比)を算出
- 3点以上を付ける条件を確認
- 単にP/F比が低いだけでは2点止まり。
- HFNC、CPAP、NIV、IMV(挿管管理)のいずれかを行っていれば3〜4点
- 呼吸不全に対するECMO使用中は、P/F比に関わらず「4点」
研修医が間違えやすい注意点まとめ
- 単位と換算: ノルアドレナリンは「base(塩基)」換算での用量を使用すること。製剤によって(重酒石酸塩など)換算が必要な場合がある
- 腎不全の「4点」: 実際にRRTを回していなくても、高カリウム血症や重症アシドーシスでRRTの適応があると判断されれば4点となる
- 循環と呼吸のECMO: 呼吸不全用ECMOは「呼吸:4点」とするが、循環不全用ECMO(V-A ECMO)は「循環:4点」と「呼吸:4点」の両方にスコアをつける
3. 今後の展望:研修医・医学生が知っておくべきこと
SOFA-2は単なる修正ではなく、「現代の治療基準」へのアップデートです。 これまで評価しきれなかった重症度の違いが可視化されることで、今後の敗血症診断基準や臨床研究においても、SOFA-2が標準的な指標となる可能性が極めて高いと考えられます。
皆さんがICUや救急外来で患者さんを診る際、この新しい「ものさし」を意識することで、より精緻な病態把握が可能になるはずです。