
この研究(SWHSI-2試験)は、英国の29施設で実施されたオープンラベル多施設並行群ランダム化比較試験であり、手術創の二次治癒(SWHSI)患者に対する陰圧閉鎖療法(NPWT)と通常ケア(標準的なドレッシング)の有効性と費用対効果を比較したものです。
Lancet 2024; 405: 1689–99 Published Online April 15, 2025 https://doi.org/10.1016/S0140-6736(25)00143-6
整形外科の先生方には常日頃大変お世話になっております。いつもありがとうございます。初めて陰圧閉鎖療法(NPWT; Negative Pressure Wound Therapy → VAC®; Vacuum Assisted Closure 療法の方が馴染み深いでしょうか?これはNPWTの旧KCI社による商標ですので以下ではNPWTと表記します)を目のあたりにしたときはビックリしましたが、最新の治療は凄いなあと感心しきりでした。ただ、熱心に説明頂いた先生が最後に「エビデンスはまだ無いんですけどね…」とボソッと言っていたのが印象的でした。ま、有意なデータは後日追いついて来るんだろうと思っていたところ、忘れていた頃にLancetからRCTの結果が出まして。うーん、もう一声といった印象です。簡単にご紹介いたします。
要約
背景と目的
- SWHSIは管理・経済的に大きな課題であり、NPWTの使用が増加しているが、比較試験による有効性のエビデンスが不足していた。
- 本研究の目的は、NPWTが通常ケアと比較して創傷治癒までの時間を短縮するかどうかを検証すること。
方法
- 16歳以上のSWHSI患者686名を、NPWT群(349名)と通常ケア群(337名)に1:1で無作為割付
- 主要評価項目は「完全上皮化までの治癒日数」
- 副次評価項目として、再入院、再手術、感染、抗菌薬使用、切断、死亡、患者報告アウトカム(痛み、QOLなど)を評価
- 追跡期間12か月
主な結果
- 患者の多くは糖尿病を有し、下肢のSWHSIが大半を占めた
- NPWTは通常ケアと比較して創傷治癒までの時間を有意に短縮しなかった(ハザード比1.08[95%CI 0.88–1.32]、p=0.47)
- 副次評価項目(再入院、再手術、感染、抗菌薬使用、切断、死亡、痛み、QOL)にも有意差なし
- 有害事象数は両群で大きな差はなく、NPWTは費用対効果も認められなかった
結論・臨床的意義
- 糖尿病合併例を含む下肢SWHSI患者において、NPWTは通常ケアと比較して治癒促進や有害事象の減少、費用対効果の点で優位性は示されなかった。
- 新規ドレッシング材導入時には比較試験の重要性が強調され、NPWTはSWHSI治療の第一選択とすべきではないことが示唆された。
症例を絞ればNPWTが有効な例もあると思うのですが、NPWTを積極的に施行した方が良い症例については、SWHSI-2試験の報告では明確に特定されていません。一方で、外科感染症学会などの提言や臨床報告からは、以下のような高リスク症例や特定の状況でのNPWTの使用が推奨されています。
陰圧閉鎖療法を積極的に検討すべき症例・状況
- 切開創SSI(手術部位感染)リスクの高い症例
術後感染リスクが高い患者(例:糖尿病インスリン治療中、ステロイド使用中、化学療法・放射線治療中、慢性腎不全の透析患者、免疫不全状態、高度肥満など)に対しては、予防的にNPWTを用いることでSSIリスクの軽減が期待される - 創傷の管理が困難な難治性潰瘍や褥瘡、血管性潰瘍、糖尿病性潰瘍
実臨床では、NPWTが創傷の安定化や浸出液管理に有用であり、患者の苦痛軽減や医療者の負担軽減にもつながると報告されている - 術後の会陰部創(例:腹会陰式直腸切断術後)など、SSI発生リスクが高い部位の創傷に対する予防的NPWT
一部の報告では、携帯型NPWTシステムを用いてSSIの発生を抑制し、良好な結果を得ている例もある - 創部の形状や部位に応じた適切なNPWT機器の選択
下垂する下腿や足にはV.A.C®、荷重部の臀部にはRENASYS®、平坦な創傷にはPICO®など、創傷の特徴に応じてNPWT機器を使い分けることで効果的な管理が可能とされている
まとめ
SWHSI-2試験の対象となった一般的なSWHSI患者群においてはNPWTの優位性は示されなかったものの、手術部位感染のハイリスク症例や難治性創傷、特定の部位の創傷管理にはNPWTを施行することが日本外科感染症学会などの提言で示されています。したがって、NPWTはすべてのSWHSIに第一選択として推奨されるわけではないものの、以下のようなケースでは積極的に検討すべきと考えられます。
- 高リスク患者(糖尿病インスリン治療中、免疫抑制状態など)
- 難治性潰瘍や褥瘡、血管性潰瘍
- SSIリスクの高い切開創(特に腹部や会陰部など)
- 創傷の形状や部位に応じた適切なNPWT機器の使用
いかがでしょうか?個人的には有効な印象を持っていたので、今回の結果は意外でした。今後の研究が待たれます。