抄読会・症例検討会

「めまい」にはメイロン?アタP?その作用機序

はじめに:めまい診療の基礎と薬剤選択の重要性

医者なりたての頃、末梢性めまい→メイロン静注しといて!と上級医に言われ、「なるほど~でも何でメイロン?」とポケット薬剤手帳を調べたら「作用機序不明」と堂々と記載されており清々しささえ覚えた記憶があります疲れてたんでしょうね…マジで?不明ってなんだよ?と思いつつ放置していたのですが。メイロンにしろアタPにしろ、あくまで中枢性の緊急疾患を除いた後の話ですが、アタPは個人的に馴染みがなく、いい機会だと思って勉強しましょう。

めまいは、身体の平衡(バランス)を保てなくなる状態を指し、その原因は多岐にわたります。患者が訴えるめまいの自覚症状は、「回転性めまい(景色が回る、引っ張られる感覚)」、「前失神(立ちくらみ、倒れそうな感覚)」、「ふらつき感(宙に浮く、足元がおぼつかない感覚)」の3パターンに大別されます 1。これらの症状は、平衡感覚を司る「耳(末梢性)」の異常に起因する場合と、「脳(中枢性)」の異常に起因する場合があり、その鑑別は臨床において極めて重要です 1

特に、脳卒中(脳梗塞、脳出血)や一過性脳虚血発作、不整脈など、生命に関わる重篤な疾患が原因である中枢性めまいや前失神は、迅速な鑑別と対処が不可欠です。例えば、呂律困難、手足の麻痺、しびれ、視力・視野異常、激しい頭痛などを伴うめまいは、脳の病気を強く示唆し、緊急性が高いと判断されます 1。救急搬送されるめまい患者に対し、初期対応としてメイロンやアタラックス-Pといった薬剤が想起されることは少なくありません 3。しかし、これらの薬剤を投与する前に、まず中枢性めまいを除外する鑑別診断のプロセスが極めて重要となります。薬剤の選択は、めまいの原因が末梢性であると判断された後、あるいは原因不明の急性期症状緩和のために対症的に行われるべきであり、その前提として鑑別診断のステップが不可欠です。このため、めまい患者に接する際には、まず「危険なめまいではないか?」という問いを立て、適切な臨床推論を行うことが求められます。

めまいの急性期治療において、症状緩和のためにメイロン(炭酸水素ナトリウム)やアタラックス-P(ヒドロキシジン塩酸塩)が頻繁に用いられます。これらは、特定のめまい疾患に対する根本治療薬ではなく、主に症状を和らげる対症療法薬としての役割を担います。両薬剤はめまいに対して使用されるものの、その作用機序や適応症、注意点が大きく異なるため、適切な薬剤選択にはそれぞれの特性を深く理解することが不可欠です。

メイロン(炭酸水素ナトリウム)

一般名と主な適応症

メイロンの一般名は「炭酸水素ナトリウム(Sodium Bicarbonate)」であり、いわゆる「重曹」の注射液製剤です 4。その主な適応症は、血液が酸性である状態であるアシドーシスの改善や、pHの上昇により尿中排泄が促進される薬物中毒時の排泄促進です 4

めまい関連の適応症としては、「動揺病(乗り物酔い)」、「メニエール症候群」、および「その他の内耳障害に伴う悪心・嘔吐およびめまい」が挙げられます 4。また、急性蕁麻疹にも適応があります 4

めまいに対する作用機序:内耳血流改善とCO2の役割

メイロンがめまいに用いられる主な作用は、内耳の血流改善です。メイロンに含まれる重炭酸イオン(HCO3-)が体内に投与され増加すると、体内の酸塩基平衡を保つために化学反応が活性化し、二酸化炭素(CO2)が生成されます 4

このCO2には強力な血管拡張作用があり、特に内耳の血管を広げることで、傾きを感じる細胞(平衡感覚器)への血流を改善します 8。これにより、内耳の機能が正常化し、めまいが改善されると考えられています。動揺病やメニエール症候群など、内耳障害に伴うめまいは、内耳への血流不足が関与している場合があるため、この血管拡張作用が有効に働くと考えられます 7メイロンの主要な作用機序はアシドーシスの補正ですが 4、めまいに対する効果は、アシドーシスを伴わない状態でも、CO2生成による血管拡張作用を介して発揮される可能性があります。これは、メイロンを単なるアシドーシス治療薬としてだけでなく、内耳血流改善薬としての側面も考慮して使用するべきであることを示唆しています。

臨床使用上の注意点:投与方法、配合変化、禁忌・副作用

メイロンの通常成人1回投与量は、12~60mEq(1~5g)を静脈内注射または点滴静注します。年齢や症状に応じて適宜増減が必要です 4

メイロンはアルカリ性(pH 7.0~8.5)の製剤であり 4、他の注射剤、特に酸性の薬剤(例:プリンペラン、アタラックス-P)と混合すると、混濁や沈殿などの配合変化を起こしやすい特性があります 10。これにより、薬剤の効果が減弱したり、有害事象のリスクが高まったりするおそれがあります。また、カルシウムイオンと沈殿を生じるため、カルシウム塩を含む製剤との配合は避けるべきです 4。したがって、両剤を投与する必要がある場合は、それぞれ別経路で投与するか、間に生理食塩液などでラインをフラッシュするなどの配慮が不可欠です。薬剤の物理化学的特性の理解が、臨床での安全な投与に直結します。

メイロンの投与に際しては、患者の全身状態を慎重に評価する必要があります。心停止のある患者では、炭酸ガスが蓄積し、細胞内アシドーシスを悪化させるおそれがあるため、十分な換気が必要です 4。うっ血性心不全、重症高血圧症、末梢・肺浮腫のある患者では、循環血液量の増加により症状が悪化するおそれがあります 4。さらに、低カルシウム血症や低カリウム血症の患者では、これらの電解質異常が悪化するおそれがあるため、注意が必要です 4。これらの注意点は、メイロンが単にめまいを抑えるだけでなく、体液量や電解質バランス、酸塩基平衡に大きな影響を与える薬剤であることを示しています。特に心停止患者におけるCO2蓄積による細胞内アシドーシス悪化の可能性は、メイロンの作用機序であるCO2生成の裏返しであり、投与の際には全身状態の評価とモニタリングが不可欠であることを強調しています。

アタラックス-P(ヒドロキシジン塩酸塩)

一般名と主な適応症

アタラックス-Pの一般名は「ヒドロキシジン塩酸塩」です 11。主な適応症は、蕁麻疹や皮膚疾患に伴う瘙痒(湿疹・皮膚炎、皮膚瘙痒症)、神経症における不安・緊張・抑うつです 12。注射液には、麻酔前投薬や術前・術後の悪心・嘔吐の防止の適応もあります 14

めまいに対する作用機序:抗ヒスタミン作用、中枢抑制作用、制吐作用

アタラックス-Pは、H1受容体拮抗作用を持つ第一世代抗ヒスタミン薬です。この作用により、内耳の前庭系および嘔吐中枢のH1受容体に作用し、めまいやそれに伴う悪心・嘔吐を抑制すると考えられています 15

また、視床、視床下部、大脳辺縁系などに作用し、中枢抑制作用を示します 11。この鎮静作用や抗不安作用が、めまいに伴う不安や緊張を和らげる効果も期待されます 17。さらに、アポモルヒネやベラトルムアルカロイドによる嘔吐を抑制する制吐作用も持ち合わせています 11

これらの複数の作用機序から、アタラックス-Pは単一のメカニズムでめまいに作用するのではなく、抗ヒスタミン作用による前庭機能の抑制、中枢抑制作用による鎮静・抗不安効果、そして直接的な制吐作用という複数の経路でめまい関連症状を緩和していることがわかります。アタラックス-Pはめまいの「原因」を治療するのではなく、「症状複合体」(めまい、悪心・嘔吐、不安、鎮静)全体をターゲットとする対症療法薬としての位置づけです。特に、めまいに伴う精神的な苦痛(不安、緊張)に対しても効果を発揮しうる点が、他のめまい治療薬とは異なる重要な側面です。

臨床使用上の注意点:投与方法、眠気、QT延長、禁忌・副作用

アタラックス-Pの静脈内注射の場合、通常成人1回25~50mgを必要に応じ4~6時間毎に静脈内注射または点滴静注します。1回の静注量は100mgを超えず、25mg/分以上の速度で注入しないよう注意が必要です。点滴静注が望ましいとされています 14

最も一般的な副作用は眠気や倦怠感、めまい自体です 12。このため、本剤投与中の患者には自動車の運転など危険を伴う機械の操作は避けるべきです 12。その他、口渇、食欲不振、胃部不快感、嘔気・嘔吐なども報告されています 18

重篤な副作用として、ショック、アナフィラキシー、QT延長、心室頻拍(torsade de pointesを含む)が報告されています 12。QT延長は特に注意が必要な副作用であり、先天性QT延長症候群、著明な徐脈、低カリウム血症のある患者ではリスクが高まります 13

アタラックス-Pの鎮静作用は、めまいの症状緩和に役立つ一方で、患者の日常生活活動(特に運転や機械操作)に支障をきたす可能性のある「副作用」としても現れます。この作用の二面性を理解し、患者への説明と安全指導を徹底する必要があります。また、めまいの原因が中枢性である場合、アタラックス-Pによる鎮静が症状の評価を困難にする可能性も考慮すべきです。

禁忌・注意すべき患者として、てんかん等の痙攣性疾患やその既往歴のある患者では痙攣閾値を低下させる可能性があります 13。抗コリン作用により症状が悪化するおそれがあるため、緑内障、前立腺肥大等下部尿路閉塞性疾患、重症筋無力症、認知症、狭窄性消化性潰瘍等消化管運動低下患者、不整脈を発現しやすい状態にある患者には注意が必要です 13。腎機能障害や肝機能障害のある患者では血中濃度半減期が延長する報告があります 13。妊婦や授乳婦には、催奇形性や新生児への影響(傾眠、筋緊張低下、離脱症状など)の報告があるため、投与は避けるべきです 13。高齢者や小児には、生理機能の低下やベンジルアルコール含有による中毒症状のリスクがあり、慎重な投与が必要です 14

薬物相互作用としては、バルビツール酸誘導体、麻酔剤、アルコール、モノアミン酸化酵素(MAO)阻害剤などの中枢神経抑制剤との併用で作用増強のおそれがあります 13。シメチジンとの併用で血中濃度上昇の報告があり、不整脈を引き起こす薬剤やQT延長を起こす薬剤との併用は、心室性不整脈やQT延長のリスクを高めるため注意が必要です 13

めまい診療におけるメイロンとアタラックス-Pの比較

メイロンとアタラックス-Pは、めまいの急性期症状緩和に用いられる薬剤ですが、その作用機序、適応、副作用、そして臨床での使い分けには明確な違いがあります。

作用機序と適応症の相違点

  • メイロン: 主に重炭酸イオンから生成されるCO2の血管拡張作用を介して内耳の血流を改善することで、めまいを改善します。メニエール症候群や動揺病など、内耳障害に起因するめまいや悪心・嘔吐に特化した適応があります。アシドーシス補正が主要な作用です。
  • アタラックス-P: 抗ヒスタミン作用、中枢抑制作用、制吐作用を介して、めまいやそれに伴う悪心・嘔吐、不安、緊張を緩和します。特定のめまい疾患に限定されず、幅広いめまい症状の対症療法に用いられます。

臨床的選択基準:「どっち?」の判断基準

メイロンとアタラックス-Pのどちらを選択するかは、めまいの原因や随伴症状によって判断されます。

  • メイロンを選択する可能性が高いケース:
    • メニエール症候群やその他の内耳障害によるめまいが強く疑われる場合。
    • 内耳血流改善を目的とした治療が有効と考えられる場合。
    • アシドーシスを合併している場合(ただし、めまい治療目的とは異なる)。
    • 嘔吐が強く、経口摂取が困難な場合(点滴製剤)。
  • アタラックス-Pを選択する可能性が高いケース:
    • めまいに伴う悪心・嘔吐、不安、緊張が顕著な場合。
    • 自律神経系の乱れによる浮動性めまいや立ちくらみ感など、中枢性の鎮静や抗不安作用が有効と考えられる場合。
    • 蕁麻疹や瘙痒を合併している場合(ただし、めまい治療目的とは異なる)。
    • 経口摂取が可能な場合(ドライシロップ製剤もある)。

メイロンは内耳の器質的・機能的異常(血流障害)に、アタラックス-Pはめまいによる症状(吐き気、不安)や中枢性・自律神経性の関与が強い場合に、それぞれより適していると考えられます。薬剤の選択は単なる経験則や慣習によるものではなく、めまいの病態生理と薬剤の作用機序を深く理解した上で行われるべきです。これは、対症療法であっても、より効果的かつ安全な治療を提供するための根拠に基づく医療の思考プロセスを養うことに繋がります。

併用時の注意点と配合変化

救急現場でめまい患者にメイロンとアタラックス-Pがしばしば併用が検討されることがあります 3。しかし、メイロンはアルカリ性製剤(pH 7.0~8.5)であるのに対し、アタラックス-Pは酸性側(pH 3.0~5.0)で安定します 10。このpHの違いにより、両者を直接混合すると、混濁や沈殿などの配合変化を起こす可能性が高く、薬剤の効果が減弱したり、有害事象のリスクが高まったりするおそれがあります 10。したがって、両剤を投与する必要がある場合は、それぞれ別経路で投与するか、間に生理食塩液などでラインをフラッシュするなどの配慮が必要です。薬剤の薬理作用だけでなく、その物理化学的特性(pH、溶解性など)が臨床での投与方法や安全性に直結する重要な情報であることを理解することが、特に点滴管理においては患者の安全を守る上で不可欠です。

表1:メイロンとアタラックス-Pの比較(めまい治療における主要な相違点)

項目メイロン(Meiron)アタラックス-P(Atarax-P)
一般名炭酸水素ナトリウム(Sodium Bicarbonate)ヒドロキシジン塩酸塩(Hydroxyzine Hydrochloride)
主な作用機序重炭酸イオンからCO2生成→内耳血管拡張→血流改善H1受容体拮抗作用(前庭・嘔吐中枢)、中枢抑制作用、制吐作用
めまいに対する主な適応動揺病、メニエール症候群、その他の内耳障害に伴うめまい・悪心・嘔吐めまいに伴う悪心・嘔吐、不安、緊張の緩和(対症療法)
その他の適応アシドーシス、薬物中毒時の排泄促進、急性蕁麻疹蕁麻疹、皮膚疾患に伴う瘙痒、神経症における不安・緊張・抑うつ、麻酔前投薬、術前・術後の悪心・嘔吐防止
主な副作用循環血液量増加による心不全悪化、電解質異常(低Ca, 低K)眠気、倦怠感、めまい、口渇、QT延長、心室頻拍(torsade de pointes含む)
重要な禁忌・注意点心停止、うっ血性心不全、重症高血圧症、浮腫、低Ca/K血症、他剤との配合変化(アルカリ性)眠気を伴う作業、てんかん、QT延長、徐脈、低K血症、緑内障、前立腺肥大、重症筋無力症、妊婦・授乳婦、他剤との配合変化(酸性)
剤形注射液(点滴静注)注射液(点滴静注)、ドライシロップ(内服)

めまい治療の全体像と両薬剤の位置づけ

めまいの治療は、その根本原因によって大きく異なります。メイロンやアタラックス-Pは急性期の症状緩和に貢献しますが、あくまで対症療法であり、めまいの根本原因を治療するものではありません。

代表的なめまい疾患とその治療ガイドラインにおける位置づけ

  • メニエール病:
    • 難聴、耳鳴、耳閉感を伴うめまい発作が反復する内耳性疾患で、内リンパ水腫が病態と考えられています 1
    • 急性期治療では、患者を安静にし、めまい・嘔気・嘔吐を抑えるために、メイロン(7%重曹水)の点滴、ジアゼパム、メトクロプラミド、ジフェンヒドラミンの内服が行われます 20。聴力低下に対してステロイド投与も行われます 20。間欠期には利尿薬(イソソルビド)が基本治療となります 19。メイロンはメニエール病急性期のめまい症状緩和に用いられるものの、病態の根本である内リンパ水腫を直接的に軽減する主要な治療薬ではありません。その役割は、血流改善による症状緩和や、悪心・嘔吐に対する対症療法の一部と位置づけられます。
  • 前庭神経炎:
    • 平衡感覚を脳に伝える前庭神経の障害による激しい回転性めまいで、難聴や耳鳴りを伴わないのが特徴です 21。吐き気や嘔吐、眼振を伴うことが多いです 22
    • 急性期治療では、めまいを和らげる薬や吐き気止めが用いられます 23。第一世代抗ヒスタミン薬(アタラックス-P含む)は急性期のめまいに伴う悪心・嘔吐に有効とされ、考慮してもよいとされています 24。ステロイド治療は半規管麻痺の回復を促進する可能性があり、治療選択肢の一つですが、確立されたものではありません 24。抗ウイルス薬の有効性は乏しいとされています 24
  • 良性発作性頭位めまい症(BPPV):
    • 起床時や寝返り時など、特定の頭位変換で数秒の潜時をおいて出現し、1分以内に消失する回転性めまいが特徴です 1。耳石が三半規管に入り込むことが原因で、難聴や耳鳴りはありません 1。治療は頭位治療(浮遊耳石置換法)が基本です 1
  • 自律神経性めまい(浮動性、立ちくらみ):
    • ストレスや過労などによる自律神経の乱れが原因で、血流調節不全や内耳への血流低下を引き起こし、ふわふわとした浮動性めまいや立ちくらみ感(起立性低血圧)を呈します 22
  • 中枢性めまい(脳卒中、脳腫瘍など):
    • 脳幹や小脳の障害によるもので、脳卒中(脳梗塞、脳出血)や脳腫瘍などが原因となります 1。呂律困難、手足の麻痺、しびれ、視力障害、激しい頭痛などを伴うことが多く、緊急性が高いです 1

対症療法としての役割と根本治療の重要性

メイロンやアタラックス-Pは、めまいの急性期症状、特に回転性めまいやそれに伴う悪心・嘔吐、不安といった苦痛を和らげる上で重要な役割を果たします。しかし、これらはあくまで対症療法であり、めまいの根本原因を治療するものではありません。

めまい診療においては、まず詳細な問診と診察によりめまいの種類(末梢性か中枢性か)を鑑別し、必要に応じて画像検査(頭部CT/MRI)や聴力検査などを行い、根本原因を特定することが最も重要です 1。原因疾患に応じた適切な治療(例:BPPVに対する浮遊耳石置換法、メニエール病に対する利尿薬、脳卒中に対する脳外科的治療など)が、めまいの長期的な改善には不可欠です 2

表2:めまいの主要な病態とメイロン・アタラックス-Pの適用

めまいの種類病態生理の概要メイロンの適用可能性と治療目的アタラックス-Pの適用可能性と治療目的主な根本治療
メニエール病内リンパ水腫による内耳機能障害○:急性期のめまい・嘔気・嘔吐の緩和(内耳血流改善)○:急性期のめまい・嘔気・嘔吐、不安の緩和(制吐・鎮静)利尿薬(イソソルビド)、ステロイド
前庭神経炎前庭神経の炎症による平衡機能障害△:内耳血流改善による症状緩和の可能性(エビデンス乏しい)○:めまいに伴う悪心・嘔吐、不安の緩和(制吐・鎮静)ステロイド(CP回復促進の可能性)、前庭リハビリテーション
良性発作性頭位めまい症 (BPPV)耳石の三半規管内への迷入×:根本治療ではない×:根本治療ではないが、症状緩和に一時的に使用される可能性浮遊耳石置換法
自律神経性めまい (浮動性、立ちくらみ)自律神経の乱れによる血流調節不全、内耳血流低下など△:内耳血流改善による症状緩和の可能性○:不安・緊張の緩和、軽度の鎮静効果ストレス管理、生活習慣改善、対症療法
中枢性めまい (脳卒中、脳腫瘍など)脳幹・小脳などの脳機能障害×:根本治療ではない×:根本治療ではないが、嘔気・嘔吐の対症療法として使用される可能性(鑑別を困難にする可能性も)原因疾患の治療(脳外科手術、薬物療法など)
薬物性めまい薬剤の副作用△:原因薬中止後の症状緩和に。メイロン自体が原因となる場合も○:症状緩和(制吐・鎮静)原因薬の中止または変更
その他貧血、心疾患など△:血流改善効果が症状緩和に寄与する可能性○:随伴する悪心・嘔吐、不安の緩和原因疾患の治療

注:上記の適用可能性は一般的な傾向を示し、個々の患者の病態や医師の判断により異なります。中枢性めまいが疑われる場合は、まず原因疾患の鑑別と治療が最優先されます。

まとめ

めまい診療において、メイロンとアタラックス-Pは急性期の症状緩和に貢献する重要な薬剤ですが、その作用機序、適応、副作用、そして臨床での使い分けには明確な違いがあります。

メイロンは、主に内耳血流改善を介して内耳性めまいに作用し、特にメニエール病や動揺病に伴うめまいに用いられます。そのアルカリ性という特性から、他の薬剤との配合変化に注意が必要です。

アタラックス-Pは、抗ヒスタミン作用と中枢抑制作用により、めまいに伴う悪心・嘔吐や不安を和らげます。眠気やQT延長などの副作用に留意し、患者への説明とモニタリングが重要です。

医学生・研修医の皆さんには、これらの薬剤を単なる「めまい止め」として捉えるのではなく、それぞれの薬剤が持つ薬理学的特性と、それがめまいのどの病態生理に作用するのかを深く理解してほしいと願います。そして何よりも、めまい患者に接する際は、まず「危険なめまいではないか」という視点から鑑別診断を徹底し、その上で適切な対症療法を選択するという、臨床推論のプロセスを大切にしてください。薬剤の知識は、患者さんの安全とより良い治療に直結するものです。

-抄読会・症例検討会