2026年8月、BMJに急性高カリウム血症の診断と治療をまとめた総説「Diagnosis and management of acute hyperkalaemia」が掲載されました。この総説では、心電図所見の限界、偽性高カリウム血症への対応、静注カルシウム、インスリン・ブドウ糖、カリウム吸着薬、透析などの位置づけが整理されています。 本稿では、医学生・研修医が押さえておきたい実践的なポイントを紹介します。

1.高カリウム血症は「数値」だけで重症度を判断しない
高カリウム血症の定義は、ガイドラインや学会によって統一されていません。欧州蘇生協議会、英国腎臓協会、KDIGOでは血清カリウム値5.5 mmol/L (mEq/L) 以上、米国心臓協会や米国家庭医学会では5.0 mmol/L以上を高カリウム血症としています。しかし、臨床的な危険性は、特定のカリウム値を境に突然生じるのではなく、連続的に上昇します。
特に注意すべきなのは、次のような状況です。
- 血清カリウム値が6.5 mmol/Lを超えている
- 短時間でカリウム値が上昇している
- 徐脈、接合部調律、QRS延長などの心電図異常がある
- 急性腎障害、慢性腎臓病、心不全を合併している
- 筋力低下、弛緩性麻痺、循環動態の不安定化がみられる
つまり、「カリウム値がいくつか」だけではなく、上昇速度、心電図、腎機能、症状、循環動態をまとめて評価することが重要です。
2.なぜ血清カリウム値が上昇するのか
体内のカリウムの約98%は細胞内にあり、細胞外に存在するのは約2%です。そのため、血清カリウム値は次の3つの機序によって変化します。
① 腎臓から排泄できない
高カリウム血症の代表的な原因です。急性腎障害や慢性腎臓病では、腎臓からのカリウム排泄能が低下します。RAAS阻害薬、カリウム保持性利尿薬、非ステロイド性抗炎症薬、トリメトプリム、カルシニューリン阻害薬なども、腎臓からのカリウム排泄を低下させることがあります。
② 細胞内のカリウムが細胞外へ移動する
代謝性アシドーシス、インスリン欠乏、高浸透圧状態、横紋筋融解、腫瘍崩壊症候群、広範な組織損傷などでは、細胞内から細胞外へのカリウム移動が起こります。一方、インスリンやβ₂刺激薬はNa⁺/K⁺-ATPaseを介してカリウムを細胞内へ移動させます。この作用が、急性期治療に利用されています。
③ 体外からのカリウム負荷が増える
腎機能が正常であれば、カリウム摂取だけで重度の高カリウム血症になることは多くありません。しかし、腎機能低下がある患者では、カリウム製剤、輸血、カリウムを含む代替塩などが原因になることがあります。
3.まず「本当に高カリウム血症か」を確認する
検査結果でカリウム高値を認めたときには、偽性高カリウム血症を考える必要があります。代表的な原因は次のとおりです。
- 採血時の溶血
- 長時間の駆血
- 採血時の強い握りこぶし
- 細い採血針や採血時の機械的刺激
- 検体保存・搬送上の問題
- 血小板増多や著明な白血球増多
- カリウムを含む輸液ラインからの採血
血液ガス分析装置などによる全血検査は迅速ですが、溶血を検出できないことがあります。全血でカリウム高値を認めた場合は、血漿または血清検体で確認することが重要です。ただし、著しい高値、心電図異常、筋力低下、循環動態の不安定化がある場合には、確認検査を待つことで治療を遅らせてはいけません。確認と初期治療を並行して進めます。
4.心電図変化がなくても高カリウム血症は否定できない
高カリウム血症では、一般的に次のような心電図変化が知られています。
- 尖鋭化T波
- PR間隔延長
- QRS幅延長
- 徐脈、接合部調律
- サインカーブ様波形
- 心室細動、無収縮
しかし、実際には心電図変化と血清カリウム値は必ずしも一致しません。
総説で紹介された前向き観察研究では、血清カリウム値が5.5~7.0 mmol/Lの患者で尖鋭化T波が認められたのは25%未満で、7.0 mmol/Lを超える患者でも35%でした。したがって、典型的な心電図変化がないことを理由に、重症高カリウム血症を否定してはいけません。
一方、重症高カリウム血症患者188例の後方視的解析では、徐脈、接合部調律、QRS延長が、6時間以内の心室細動、心肺蘇生、死亡などの重大事象と関連していました。特にこれらの所見を認めた場合は、より緊急性が高いと考えます。
5.急性期治療は「守る・移す・出す」の3ステップ
急性高カリウム血症の治療は、目的の異なる3段階に分けると理解しやすくなります。
Step 1:心筋を守る
心電図異常や血行動態不安定を伴う場合には、静注カルシウムを使用します。カルシウムは、低下した心筋伝導を速やかに改善し、不整脈リスクを低減するための治療です。ただし、カルシウム自体には血清カリウム値を下げる作用はありません。効果時間も限られるため、引き続き細胞内移行と体外除去を行う必要があります。 総説では、心電図異常がある場合には静注カルシウムが推奨されています。またKDIGOの会議報告では、カリウム値が6.5 mmol/Lを超え、速やかに心電図を確認できない状況では、カルシウム投与を考慮することが提案されています。
Step 2:カリウムを細胞内へ移す
中心となるのは、インスリンとブドウ糖の静脈内投与です。インスリンはNa⁺/K⁺-ATPaseを活性化し、カリウムを細胞内へ移動させます。総説では、血清カリウム値をおよそ0.6~1.4 mmol/L低下させるとされています。 ただし、この治療で特に注意すべき合併症が低血糖です。インスリンの作用時間はブドウ糖より長いため、投与直後の血糖が正常でも安心できません。総説では、少なくとも4時間の血糖モニタリングが推奨されています。
10件、3,437例の後方視的研究を統合したメタ解析では、低用量インスリンは10単位投与と比較してカリウム低下効果に明らかな差がなく、低血糖のオッズが低かったと報告されています。ただし、最適な投与量については前向き研究が不足しており、患者の体重、腎機能、糖尿病歴、治療前血糖値を考慮する必要があります。 吸入またはネブライザーによるサルブタモールも、カリウムの細胞内移行を促します。インスリン・ブドウ糖との併用で相加的な効果が期待されますが、末期腎不全や非選択的β遮断薬の使用中などでは効果が弱い可能性があります。
Step 3:カリウムを体外へ出す
細胞内移行療法は、一時的に血液中のカリウムを細胞内へ移しているだけです。総カリウム量そのものを減らすには、次のような治療が必要です。
- 尿中排泄を促すループ利尿薬
- 消化管から排泄するカリウム吸着薬
- 血液透析などの腎代替療法
ループ利尿薬は、体液量過剰があり、腎機能と尿量が保たれている患者で検討されます。低容量や無尿の患者では有効性が期待しにくく、適応を慎重に判断します。 新しいカリウム吸着薬については、急性期治療におけるエビデンスがまだ限定的です。標準治療にジルコニウムシクロケイ酸ナトリウムを上乗せした無作為化試験では、2時間後にはプラセボとの差が認められましたが、4時間後には明確な差がありませんでした。したがって、カリウム吸着薬だけに依存せず、重症例では他の治療と組み合わせる必要があります。
6.治療抵抗例では透析を早めに検討する
血液透析は、血清カリウムを体外へ除去する最も確実な治療法です。特に次のような場合には、早期に腎臓内科や透析担当部門へ相談します。
- 薬物治療に反応しない
- 高カリウム血症が再上昇する
- 重症の急性腎障害がある
- 乏尿または無尿である
- 維持透析患者に重症高カリウム血症が生じた
- 持続する心電図異常や循環動態不安定がある
- 高カリウム血症が心停止の原因と考えられる
血液透析では、最初の1時間で血清カリウム値が約1 mmol/L、3時間で最大約2 mmol/L低下するとされています。ただし、透析終了後1~6時間にリバウンドする可能性があるため、治療後も再検査とモニタリングが必要です。
7.重炭酸ナトリウムは「高カリウム血症だから投与」ではない
重炭酸ナトリウムは、従来から高カリウム血症の治療に用いられてきました。しかし、総説では、代謝性アシドーシスを伴わない患者でのカリウム低下効果は乏しく、代謝性アシドーシスがある患者でも急性高カリウム血症に対する有効性は明確ではないと整理されています。 したがって、重炭酸ナトリウムはルーチンに使用するのではなく、明らかな代謝性アシドーシス、ナトリウム負荷への耐容性、体液量などを考慮して選択します。また、カルシウム製剤と重炭酸ナトリウムを同じ静脈ラインから連続して投与すると、炭酸カルシウムが析出する可能性があります。別ルートを使用するか、投与間にラインを十分フラッシュする必要があります。
8.RAAS阻害薬は機械的に中止しない
慢性腎臓病や心不全患者では、ACE阻害薬、ARB、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬などが高カリウム血症の一因となることがあります。しかし、これらの薬剤には腎保護や心不全治療上の重要な意義があります。KDIGOは、薬物治療などを行っても高カリウム血症を制御できない場合を除き、慢性腎臓病患者のRAAS阻害薬をルーチンに中止しない方針を示しています。
薬剤を中止する前に、次の点を検討します。
- カリウム製剤や代替塩の使用
- 非ステロイド性抗炎症薬などの併用薬
- 脱水や急性腎障害
- 食事中のカリウム負荷
- 利尿薬の調整
- カリウム吸着薬の併用
- 継続的なカリウム値と腎機能のモニタリング
原因薬剤を見つけたら直ちにすべて中止するのではなく、治療上の利益と高カリウム血症のリスクを比較する視点が大切です。
9.医学生・研修医が覚えておきたい実践ポイント
高カリウム血症に遭遇したら、次の順番で考えましょう。
① 本当に高カリウム血症か
溶血、採血手技、検体搬送、血小板・白血球数を確認します。全血検査での高値は血漿または血清検体で再確認します。
② いま危険か
カリウム値だけでなく、心電図、上昇速度、腎機能、筋力低下、循環動態を評価します。
③ 心筋を守る必要があるか
心電図異常や血行動態不安定があれば、静注カルシウムを検討します。
④ カリウムを細胞内へ移す
インスリン・ブドウ糖を中心に、必要に応じてβ₂刺激薬を追加します。治療後の低血糖と再上昇に注意します。
⑤ カリウムを体外へ除去できるか
尿量、腎機能、体液量を確認し、利尿薬、カリウム吸着薬、透析を検討します。
⑥ 原因を修正する
急性腎障害、アシドーシス、組織崩壊、薬剤、カリウム負荷などを検索し、再発予防につなげます。
おわりに
高カリウム血症の診療で最も重要なのは、典型的な心電図変化を待たないことです。心電図が正常に見えても、重症高カリウム血症を否定することはできません。急性期治療は、次の3つに整理できます。すなわち、心筋を守る、カリウムを細胞内へ移す、カリウムを体外へ出す、です。静注カルシウムは心筋を守りますが、カリウム値を下げません。インスリンやβ₂刺激薬は速やかにカリウムを細胞内へ移しますが、効果は一時的です。最終的には、原因への介入とカリウムの体外除去が必要です。医学生・研修医の皆さんは、「Kが高い」という検査値だけを見るのではなく、患者の全身状態、心電図、腎機能、薬剤、病態の時間経過を統合して判断する習慣を身につけましょう。