米国心臓協会(AHA)および米国心臓病学会(ACC)を含む13の学術団体は、2017年以来8年ぶりの改訂となる「成人の高血圧の予防・検出・評価・管理のためのガイドライン2025」を公表しました。本ガイドラインは、最新のエビデンスに基づき、高血圧管理の新たなスタンダードを提示しています。
以下に、日常臨床および地域保健において特に重要な9つのポイントを解説します。
1. 目標血圧は「130/80mmHg未満」を堅持
高血圧は、冠動脈疾患、心不全、心房細動、脳卒中、さらには認知症や慢性腎臓病(CKD)の主要かつ修正可能なリスク因子です。全成人における包括的な治療目標は130/80mmHg未満とされています。ただし、施設ケアが必要な患者や余命が限られている患者、妊婦などには個別の検討が必要です。
2. 地域社会全体でのスクリーニングと介入
地域住民や保健システムと協力し、地域社会の全成人に対してスクリーニングを実施することが推奨されています。これにより、ガイドラインに基づいた予防・管理を徹底し、血圧コントロール率の向上を目指します。
3. 多職種連携によるチーム医療の推進
高血圧管理の障壁(薬剤へのアクセスや構造的問題)を解消するため、医師、薬剤師、看護師、管理栄養士、コミュニティヘルスワーカーらによる多職種チーム医療が効果的です。患者個々のニーズに応じたサポートがコントロール達成の鍵となります。
4. 血圧の分類基準
本ガイドラインでは血圧値を以下の4つに分類しています。
- 正常血圧 (Normal):120/80mmHg未満
- 血圧高値 (Elevated):130/80mmHg未満(かつ収縮期120-129mmHg)
- 高血圧 Stage 1:130-139/80-89mmHg
- 高血圧 Stage 2:140/90mmHg以上
5. 生活習慣改善の強力な推奨
すべての成人に対し、以下の生活習慣改善が強く推奨されています。
- 体重管理:肥満・過体重の場合、少なくとも5%の体重減少を目指す
- 食事療法:DASH食などの心臓に良い食事パターンの遵守
- 減塩とカリウム摂取:ナトリウム摂取を2300mg/日未満(理想は1500mg/日未満)に抑え、食事からのカリウム摂取を増やす
- 身体活動:有酸素運動やレジスタンストレーニングの導入
- その他:ストレス管理、アルコール摂取の削減または中止(禁酒が最適)…うーん…節酒ですかねぇ…禁酒はねぇ…
6. 薬物療法の開始基準と「PREVENT™」の導入
薬物療法の開始基準には、新たなリスク予測ツール「PREVENT™」が採用されました。
- 血圧140/90mmHg以上:すべての成人で薬物療法を開始
- 血圧130/80mmHg以上:以下の条件に該当する場合に推奨
- 心血管疾患(CVD)の既往、糖尿病、またはCKDがある
- PREVENTによる10年間のCVDリスクが7.5%以上
- 低リスク患者:10年リスク7.5%未満の場合、3~6ヶ月の生活習慣改善を行っても130/80mmHg以上のままなら薬物療法を検討する
7. 高血圧 Stage 2では「配合薬」を推奨
高血圧 Stage 2(140/90mmHg以上)の成人に対しては、アドヒアランス(服薬維持)向上と早期のコントロール達成のため、異なるクラスの第一選択薬2剤を組み合わせた単一錠剤の配合薬(Single-pill combination: SPC)の投与が推奨されます。
8. 家庭血圧モニタリングの重要性とカフレス機器への注意
家庭での血圧測定は、多職種チームとの連携において重要なツールです。ただし、スマートウォッチなどのカフレス機器による測定は、精度と信頼性が十分に示されるまでは避けるべきとされています。まあまあ便利ですけどね。
9. 高血圧切迫症は外来診療で対応
180/120mmHgを超えるものの急性臓器障害の兆候がない場合(旧称:高血圧緊急症ではない高血圧切迫症、現在はSevere Hypertensionと呼称)、入院ではなく外来診療において評価と治療(経口降圧薬の開始や調整)を行うべきです。
本講座の視点:今回の改訂では、より現代的なリスク予測ツールであるPREVENTの導入や、配合薬による早期介入が強調されています。患者さん一人ひとりのライフスタイルに合わせた最適なチーム医療の構築が求められています。
