抄読会・症例検討会

抄読会#33:熱中症診療で最も重要なのは「何度まで上がったか」ではなく「高体温が何分続いたか」

2025年 Annals of Internal Medicine 総説から学ぶ、重症熱関連疾患の診断と初期対応

 気候変動に伴って極端な高温日が増加するなか、熱関連疾患は救急診療だけでなく、日常診療、スポーツ医学、産業保健、公衆衛生においても重要性を増しています。今回取り上げるのは、2025年6月26日に Annals of Internal Medicine にオンライン掲載された総説「Heat-Related Illnesses」です。本総説では、軽症の熱関連疾患から、熱疲労、熱傷害、熱射病の診断、現場での冷却、救急搬送、入院後の臓器障害管理、運動への復帰までが体系的に整理されています。

なかでも強調されているのが、熱射病は「検査結果を待って診断する病気」ではなく、疑った時点で直ちに冷却を開始すべき救急疾患であるという点です。

It’s not how hot the patient gets, but how long the patient has been hot.
重要なのは、体温が何度まで上がったかではなく、高体温がどれだけ長く持続したかである。

この考え方が、熱射病診療全体を貫く中心原則です。

1.熱関連疾患はどのように分類されるのか

熱関連疾患には、運動関連筋けいれん、熱失神、熱浮腫、汗疹などの比較的軽症で自然軽快しやすい病態と、積極的な医学的介入を要する重症熱関連疾患があります。本総説では、重症熱関連疾患を次の3つに分類しています。

熱疲労:Heat exhaustion

熱環境下で皮膚血流が増加し、脱水も加わることで、運動や活動を継続するために必要な心拍出量と血圧を維持できなくなった状態です。体温は上昇しますが、多くの場合は40℃未満です。活動を中止し、冷却と水分・電解質バランスを回復させることで、通常は比較的速やかに改善します。

熱傷害:Heat injury

熱疲労に加えて、腎臓、肝臓、消化管、骨格筋などの臓器障害を認める状態です。急性腎障害、トランスアミナーゼ上昇、下痢、横紋筋融解などがみられますが、熱射病と異なり、中枢神経症状は認めません。診断には血液検査や尿検査による臓器障害の確認が必要です。

熱射病:Heat stroke

生命を脅かす最重症型です。基本的には、

  • 高体温
  • 中枢神経機能障害
  • 高温環境への曝露、または身体活動の状況

という3要素から臨床的に診断します。中枢神経症状は、軽度の性格変化や歩行異常から、混乱、興奮、せん妄、けいれん、昏睡までさまざまです。熱射病でいう「stroke」は、脳卒中のような局在性神経症状を意味するわけではなく、多くの場合は全般性の脳症として現れます。

3つは単純な重症度の階段ではない

熱疲労から熱傷害を経て熱射病へ進むことはありますが、すべての患者がこの順序をたどるわけではありません。前駆症状に乏しいまま、突然、熱射病として倒れることもあります。したがって、重症熱関連疾患が疑われる患者では、最初から熱射病として対応し、冷却を開始したうえで、後から病型を整理するのが安全です。

2.熱射病には「古典型」と「労作型」がある

熱射病は、発症状況と患者背景から、古典型熱射病と労作型熱射病に分けられます。

古典型熱射病

古典型熱射病は、熱波などによる受動的な高温曝露で発症します。

典型的な患者像は次のとおりです。

  • 高齢者
  • 乳幼児
  • 慢性疾患を有する患者
  • 精神疾患や神経疾患がある患者
  • 自力で水分摂取や環境調整ができない人
  • 社会的に孤立している人
  • 空調設備を利用できない人
  • 寝たきりの患者

慢性疾患そのものに加え、多剤併用、アルコールや薬物の問題、生活環境、経済状況なども発症リスクに影響します。

労作型熱射病

労作型熱射病は、運動や作業で産生される代謝熱が身体の放熱能力を上回ることで発症します。

典型的には、

  • 若年者
  • スポーツ選手
  • 軍人
  • 屋外労働者
  • 高温環境下で激しい身体活動を行う人

にみられます。労作型は真夏だけの病気ではありません。身体活動による熱産生が大きければ、比較的穏やかな気温でも発症する可能性があります。また、古典型では皮膚が乾燥していることが比較的多い一方、労作型では発汗が持続し皮膚が濡れていることが少なくありません。「汗をかいているから熱射病ではない」という判断は誤りです。

3.発症リスクは「環境」だけでなく「患者背景」と「薬剤」から考える

熱中症というと気温や湿度に注目しがちですが、発症には内在的要因と外在的要因の両方が関係します。

内在的リスク

代表的なものには次があります。

  • 肥満
  • 心血管疾患
  • 脳血管疾患
  • 内分泌疾患
  • 神経疾患
  • 精神疾患
  • 呼吸器疾患
  • 最近の感染症
  • 脱水
  • 睡眠不足
  • 暑熱順化不足
  • 体力不足
  • 過去の熱関連疾患
  • 発汗障害
  • 自己管理能力の低下

労作型では、本人の過度な意欲や、指導者、監督者、同僚からの圧力も重要なリスクです。「休みたいと言いにくい環境」自体が発症要因になり得ます。

薬剤関連リスク

長期使用薬の確認も重要です。総説では、以下の薬剤がリスク要因として挙げられています。

  • β遮断薬
  • 利尿薬
  • カルシウム拮抗薬
  • 抗コリン薬
  • 下剤
  • 交感神経刺激薬
  • 三環系抗うつ薬
  • 選択的セロトニン再取り込み阻害薬
  • 一部の抗精神病薬
  • 甲状腺ホルモン関連薬

薬剤は、心拍出量、皮膚血流、発汗、水分・電解質バランス、認知機能などに影響し、熱への生理的対応を妨げる可能性があります。ただし、リスクがあるからといって、必要な薬剤を患者が自己判断で中止してよいという意味ではありません。高温期には、基礎疾患、併用薬、脱水リスク、生活環境を含めて医療者が個別に評価することが大切です。

4.診断の中心は「高体温・中枢神経障害・状況」の3点

熱射病は臨床診断です。診断に特異的なバイオマーカーや画像所見はありません。問診では、次の3点を優先します。

  1. 高温環境への曝露があったか
  2. 運動や作業を行っていたか
  3. 普段と比べて言動や動作に変化があったか

患者本人は脳機能障害のため、経過を正確に説明できないことがあります。そのため、家族、同僚、指導者、救急隊員、目撃者からの情報が重要です。特に見逃してはならないのが、軽微な中枢神経症状です。

  • 受け答えが普段と違う
  • 性格が変わったように見える
  • 落ち着きがない
  • 攻撃的になった
  • 歩き方がおかしい
  • 判断力が低下している
  • 頭痛やめまいを訴える
  • 一時的には会話できたが、その後急速に悪化した

熱射病は、必ずしも昏睡状態で発症するわけではありません。軽微な性格変化や歩行異常が、最初の徴候となることがあります。

5.深部体温は直腸温で評価する

重症熱関連疾患が疑われる場合、深部体温の評価には直腸温を用います。耳式、口腔、腋窩、側頭部などの測定値は、高温環境下や運動直後には深部体温を正確に反映しない可能性があります。皮膚表面が冷却されると、実際には深部高体温が続いているにもかかわらず、表面温度だけが低く測定されることもあります。本総説では、直腸サーミスタを約15 cm挿入して測定する方法が示されています。連続測定が可能であれば、冷却を中断せずに深部体温の変化を追跡できます。

「40℃以上」は診断の絶対条件ではない

熱射病では通常、直腸温が40℃を超えます。しかし、40℃未満だから熱射病ではないとは限りません。

患者が医療者に接触する前に自然冷却されていた場合や、すでに冷却処置が始まっていた場合には、測定時の体温が40℃未満になっている可能性があります。したがって、体温の数字だけではなく、中枢神経症状と発症状況を統合して判断します。さらに重要なのは、直腸温の測定準備に時間がかかる場合でも、冷却を遅らせてはならないという点です。重症熱中症を疑った時点で、測定準備と冷却を並行して進めます。

6.鑑別診断より先に冷却する

高体温と意識障害を呈する患者の鑑別は広範です。

  • 敗血症
  • 髄膜炎、脳炎
  • 低血糖
  • 低ナトリウム血症
  • 甲状腺クリーゼ
  • 脳出血
  • けいれん重積
  • セロトニン症候群
  • 抗コリン薬中毒
  • 交感神経刺激薬中毒
  • 悪性症候群
  • 悪性高熱症
  • 薬物・アルコール関連病態

しかし、鑑別診断を進めることを理由に冷却を遅らせてはいけません。熱射病では治療の遅れが不可逆的な臓器障害につながります。一方、冷却は鑑別疾患の検索と並行して実施できます。そのため、重症熱関連疾患が疑われる場合は、まず冷却を開始し、同時に感染症、代謝異常、中毒、神経疾患などを評価します。鑑別疾患と熱射病が併存する可能性にも注意が必要です。例えば、感染症や薬剤の影響が発症の引き金となり、熱射病を合併していることがあります。

7.原則は「Cool first, transport second」

熱射病の病院前対応では、

Cool first, transport second
まず冷却し、その後に搬送する

という原則が強調されています。これは「救急要請を後回しにする」という意味ではありません。救急要請と搬送準備を進めながら、その場で直ちに冷却を開始するという意味です。救急車の到着を待ってから冷却を始める、あるいは病院到着後に初めて冷却するのでは、高体温の持続時間が長くなります。熱射病では、発症後30分程度の「golden half hour」に、いかに体温を低下させられるかが重要です。

現場では次の行動を並行して行います。

  1. 反応、気道、呼吸、循環を確認する
  2. 救急要請を行う
  3. 衣服や防具を取り外す
  4. 直腸温を測定、または測定準備を行う
  5. 全身冷却を開始する
  6. 冷却中も意識、呼吸、循環を継続評価する
  7. 冷却を維持しながら搬送につなげる

心停止を認める場合には、当然ながら心肺蘇生アルゴリズムを優先します。

8.目標は深部体温を速やかに39℃未満へ下げること

重症熱関連疾患の冷却目標は、深部体温をできるだけ速やかに39℃未満まで下げることです。理想的には30分以内、遅くとも60分以内の達成を目指します。冷却速度は少なくとも毎分0.10℃以上、可能であれば毎分0.15℃を超えることが望ましいとされています。総説が引用したシステマティックレビューでは、適切な速度で冷却された患者では死亡例がなく、冷却速度が不十分な群では死亡および合併症が多く認められました。特に毎分0.15℃を超える冷却は、労作型熱射病から合併症なく生存することと関連していました。

冷却終了の目安

複数の専門機関は、低体温への行き過ぎを避けるため、直腸温が約38.3~38.9℃になった時点で積極的冷却を中止することを提案しています。

直腸温を連続測定できない状況では、意識が改善し、開眼し、普段に近い会話や行動が可能になったことを一つの目安とします。ただし、30~40分冷却しても中枢神経機能が改善しない場合は、診断や合併病態を再評価する必要があります。

9.最も速い冷却法は冷水浸漬

労作型熱射病において、最も速い冷却法は冷水浸漬です。本総説に示された病院前冷却法の冷却速度は、おおむね次のとおりです。

冷却法報告された冷却速度
冷水浸漬0.13~0.35℃/分
タープを使用した水・氷浸漬0.14~0.17℃/分
氷水に浸したタオル0.11~0.16℃/分
冷水を繰り返しかける方法0.04~0.20℃/分
冷水に浸したシーツ0.05~0.16℃/分
水の噴霧0.03~0.17℃/分
受動的冷却のみ約0.03℃/分

冷水浸漬ができない場合にも、何もしないで搬送するのではなく、利用できる手段を組み合わせます。

  • 衣服や防具を外す
  • 冷水を繰り返しかける
  • 濡れたシーツやタオルで覆う
  • 送風する
  • 腋窩、鼠径部、頸部などに氷嚢を置く

氷嚢を限られた部位に置くだけでは、全身を水で冷却する方法より冷却効率が劣る可能性があります。可能であれば、広い体表面積を継続的に冷却することが重要です。

古典型熱射病では個別判断も必要

高齢者や基礎疾患の多い古典型熱射病では、冷水浸漬が実施しにくい場合があります。処置やモニタリングへのアクセス、患者の体格、循環動態、震えの発生などを考慮し、冷水の噴霧と送風を組み合わせた蒸発・対流冷却などを選択します。ただし、実施上の困難さを理由に冷却開始そのものを遅らせてはいけません。

10.初期検査が正常でも安心してはいけない

熱射病の臓器障害は、発症直後の検査では明らかでないことがあります。本総説では、熱射病の臨床経過を次の3段階に整理しています。

  1. 急性の高体温・神経症状期
  2. 24~48時間後に目立つ血液・酵素異常期
  3. 96時間以降にも持続し得る腎・肝障害期

兵士の労作型熱射病2,529例を検討した研究では、電解質異常や尿所見など急性腎障害関連の指標は発症当日に多く、24~48時間で改善する傾向がありました。一方、筋障害や肝障害のマーカーは24~96時間後にピークとなり、異常値が2~16日間持続することがありました。 したがって、来院時のクレアチニン、CK、AST、ALT、凝固系が正常であっても、臓器障害を否定することはできません。

評価を検討する項目

患者の状態に応じて、以下を反復評価します。

  • 血算
  • Na、K、Cl、Ca、血糖
  • 腎機能
  • 尿検査
  • CK、ミオグロビン
  • AST、ALT、LDH、ビリルビン
  • PT、INR、APTT、フィブリノゲン、Dダイマー
  • 血液ガス、乳酸
  • 心電図、心筋障害マーカー
  • 感染が疑われる場合の培養検査
  • 神経症状が遷延する場合の頭部画像、脳波

単回の検査結果ではなく、経時的変化を見ることが重要です。

11.輸液は必要だが「たくさん入れればよい」わけではない

熱関連疾患では、発汗による脱水と末梢血管拡張により、循環血液量が低下していることがあります。そのため、静脈路を確保し、循環動態と脱水の程度に応じて輸液を行います。一方で、過剰輸液には注意が必要です。

  • 低ナトリウム血症
  • 肺水腫
  • 心負荷
  • 体液過剰

を引き起こす可能性があるからです。特に運動中に低張液を過剰摂取していた患者では、運動関連低ナトリウム血症が熱関連疾患と同時に存在する可能性があります。「暑い環境で倒れたから脱水だろう」と決めつけ、大量輸液を行うのは危険です。血圧、心拍数、尿量、電解質、腎機能、呼吸状態などを確認しながら、必要量を個別に調整します。


12.入院後は横紋筋融解、AKI、肝障害、DICに備える

熱射病に対する特異的な薬物療法は確立されていません。緊急冷却後の中心は支持療法です。入院後の主要な目標は次の3つです。

① 体温の継続監視

再上昇する高体温や、冷却による低体温に注意します。持続する、または再度出現する高体温については、冷却不足だけでなく、感染症など別の原因も再評価します。

② 循環・呼吸管理

脱水と血管拡張による循環不全を補正します。同時に、輸液過剰を避け、呼吸状態、尿量、電解質を確認します。冷却自体にも循環を改善する効果があります。皮膚血管を収縮させ、末梢に分布していた血液を中心循環へ戻すためです。

③ 合併症の早期発見と治療

特に注意すべき合併症は次のとおりです。

  • 横紋筋融解症
  • 急性腎障害
  • 急性肝障害、劇症肝不全
  • 播種性血管内凝固
  • 電解質異常
  • 不整脈
  • 遷延する神経障害
  • ショック

重症例では集中治療管理が必要となり、急性肝不全などでは専門施設への転院や移植医療を含めた相談が必要になることがあります。

解熱薬は熱射病の中心治療ではない

熱射病の高体温は、感染症に伴う発熱とは機序が異なります。視床下部の体温設定値が上昇しているのではなく、熱産生と放熱のバランスが崩れ、身体に熱が蓄積した状態です。そのため、アセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬などの解熱薬が冷却を促進するという根拠はありません。ダントロレンについても、熱射病に対する標準治療として支持する十分な根拠はありません。必要なのは、物理的かつ迅速な全身冷却です。

13.退院・帰宅判断には「遅発性臓器障害」を織り込む

全例を一律に入院させる、または全例を帰宅させるという明確な基準は確立されていません。ただし、以下の場合には入院または慎重な経過観察を強く考慮します。

  • 救急外来で積極的冷却を必要とした
  • 意識障害が遷延している
  • 循環動態が不安定
  • 臓器障害を認める
  • 重い基礎疾患がある
  • 初期冷却が遅れた
  • 帰宅後に見守る家族や支援者がいない
  • 確実な再診・検査計画を立てられない

一方、現場で極めて迅速に冷却され、症状が完全に改善し、医師による評価で安定している労作型熱射病例については、適切な説明と家族による見守り、明確なフォローアップ計画を条件として帰宅できる可能性があります。しかし、帰宅時点で初期検査が正常でも、24~96時間後に筋障害や肝障害が顕在化する可能性があります。帰宅させる場合には、翌日以降の再診、血液検査、悪化時の受診基準まで具体的に示す必要があります。

14.労作型熱射病後の運動復帰は段階的に行う

労作型熱射病の治療は、深部体温が下がった時点で終了するわけではありません。安全に運動、競技、訓練、労働へ復帰させることも診療の重要な一部です。本総説が紹介する米国スポーツ医学会の考え方では、まず初期治療終了後、少なくとも7日間は運動を休止します。その後、次の項目を再評価します。

  • 神経認知機能
  • 腎機能
  • 肝機能
  • 筋障害
  • 血液・凝固異常
  • 発症時の環境条件
  • 暑熱順化の状態
  • 水分・塩分摂取
  • 睡眠、体調、感染症
  • 薬剤やサプリメント
  • 過度な意欲や指導環境

臓器機能が正常化し、医学的に復帰可能と判断した後は、涼しい環境で軽い運動から開始します。その後2~4週間かけて、運動時間、強度、暑熱曝露を段階的に増やします。4~6週間たっても高温環境での運動に適応できない場合や、異常な症状が再現する場合には、熱関連疾患に詳しい医師への紹介や、管理された環境での暑熱耐性評価を検討します。

この論文で学べる13の要点

❶ 重症熱関連疾患には「熱疲労・熱傷害・熱射病」が含まれる

熱疲労は循環維持が困難となった状態、熱傷害は臓器障害を伴う状態です。熱射病は高体温と中枢神経障害を特徴とする、最重症の救急病態です。

❷ 主な内在的リスクは慢性疾患、薬剤使用、脱水、暑熱順化不足など

β遮断薬、利尿薬、抗コリン薬などの長期使用もリスクに関係します。労作型では、睡眠不足、感染症、過度な意欲、指導者からの圧力にも注意します。

❸ 熱射病は「古典型」と「労作型」で好発像が異なる

古典型は高齢者、乳幼児、基礎疾患を有する人に多く、労作型は運動や作業を行う若年者に多くみられます。

❹ 熱射病は「高体温・中枢神経障害・高温曝露または労作歴」から診断する

特異的バイオマーカーはなく、臨床診断が基本です。通常は直腸温が40℃を超えますが、40℃未満でも否定はできません。

❺ 深部体温は直腸温で評価する

耳式、腋窩、口腔、側頭部の測定は、運動中や高温環境下では不正確になり得ます。重症例では直腸サーミスタによる連続測定が望まれます。

❻ 重症熱中症を疑ったら、鑑別診断を待たずに冷却を始める

敗血症、中毒、内分泌疾患、神経疾患などを鑑別しますが、検査や画像診断を理由に冷却を遅らせてはいけません。

❼ 現場では「冷却を優先し、搬送はその後」が原則

救急要請と搬送準備を進めながら、現場で直ちに冷却を開始します。病院到着まで何もしないことが最も危険です。

❽ 深部体温を速やかに39℃未満へ下げる

理想は30分以内です。少なくとも毎分0.10℃以上、可能であれば毎分0.15℃を超える冷却速度が望まれます。

❾ 最も速い冷却法は冷水浸漬

報告された冷却速度は毎分0.13~0.35℃です。冷水浸漬が困難でも、冷水散布、濡れたシーツ、送風などを組み合わせ、受動的冷却だけで待たないことが重要です。

❿ 初期検査が正常でも遅発性臓器障害に注意する

筋障害や肝障害のマーカーは24~96時間後にピークとなることがあります。単回の検査ではなく、経時的な再評価が必要です。

⓫ 輸液は脱水を補正しつつ、容量過剰を避ける

低ナトリウム血症や肺水腫を防ぐため、血圧、尿量、電解質、呼吸状態を見ながら調整します。

⓬ 入院後は冷却継続、循環補助、合併症治療を行う

横紋筋融解、急性腎障害、肝不全、DICなどを監視・治療します。一般的な解熱薬に冷却促進効果を期待することはできません。

⓭ 労作型熱射病後は7日以上運動を休止し、段階的に復帰する

臓器機能の回復を確認した後、涼しい環境で軽い運動から再開し、2~4週間かけて負荷と暑熱曝露を増やします。

医学生・研修医が覚えておきたい初期対応

重症熱関連疾患が疑われる患者に遭遇したら、次の順序を意識してください。

1.まず生命危機を確認する

反応、気道、呼吸、循環を評価します。心停止があれば直ちに心肺蘇生を開始します。

2.意識障害と発症状況を確認する

高温環境、運動、屋外作業、空調のない室内での生活歴を確認します。患者本人だけでなく、目撃者から情報を得ます。

3.直腸温を測る

ただし、測定準備のために冷却を遅らせません。

4.衣服を外し、全身冷却を開始する

労作型では冷水浸漬を第一選択とします。できない場合は、利用可能な冷却手段を組み合わせます。

5.目標体温と時間を共有する

チーム全体で「深部体温39℃未満を30分以内に目指す」と共有します。

6.検査は冷却と並行する

採血、静脈路確保、心電図、鑑別診断の評価を行いますが、冷却を中断しません。

7.初期改善後も経過を追う

意識と体温が改善しても、24~96時間後の筋・肝障害を想定してフォローアップします。

おわりに

熱射病の診療において、最も重要な治療資源は「時間」です。診断を完全に確定してから治療を開始するのではなく、重症熱関連疾患を疑った時点で全身冷却を始める必要があります。そして、現場から救急外来、集中治療、退院後のフォロー、運動・作業への復帰まで、切れ目のない対応が求められます。

医学生・研修医がまず覚えるべきメッセージは、次の3点です。

意識障害を伴う高体温では熱射病を疑う。
診断や搬送のために冷却を遅らせない。
体温が下がった後も、遅発性臓器障害を見逃さない。

気候変動によって熱関連疾患への対応機会が増えることが予想される現在、熱射病の迅速な認識と冷却は、すべての医療者が身につけておくべき基本的救命手技といえます。

※本記事は論文の内容を医学生・研修医向けに要約・再構成した教育目的の解説です。勉強すること多くね?と腐らず頑張って下さい役に立ちます。個々の患者の診療では、患者背景、医療資源、所属施設の手順および最新の国内ガイドラインに基づいて判断してください。

-抄読会・症例検討会