抄読会・症例検討会

「後発地震」への備え — 北海道・三陸沖後発地震注意情報

北海道・三陸沖を対象とした「後発地震注意情報」は、日本海溝・千島海溝沿いでさらに大きな地震が起こる可能性が高まったときに出る“巨大地震への注意喚起情報”であり、2025年12月9日に初めて発表されました​

注意情報は いつ・なぜ出たのか

2025年12月8日23時15分頃、青森県東方沖を震源とするモーメントマグニチュード7.4(速報値)の地震が発生し、最大震度6強と津波が観測されました。​
この地震は、日本海溝沿いでMw7.0以上の「先に起こった地震」に相当し、周辺でMw8級以上の大規模地震が続発する可能性が平常時より高まったと評価されたため、9日2時00分に「北海道・三陸沖後発地震注意情報」が運用開始後初めて発表されました。​

「後発地震注意情報」とは何か

「北海道・三陸沖後発地震注意情報」は、日本海溝・千島海溝沿いでMw7.0以上の地震が発生し、その前後7日以内にMw8以上の“後発地震”が起こる確率が平常時より相対的に高まった場合に、気象庁が内閣府と連名で発表する情報です。​
世界の統計から、こうした条件下でのMw8級地震の発生確率はおよそ1%(平常時0.1%の約10倍)とされ、「ゼロではない現実的なリスク」を社会に共有することが目的です。

何を求められている情報なのか

今回の注意情報が対象とするのは、北海道から千葉県までの7道県182市町村で、原則として発表から1週間程度(今回のケースでは12月16日0時まで)、「すぐ避難できる態勢の維持」と「備えの再確認」が求められています。

​医療機関における「巨大地震注意」の意義

この情報が発出された際、災害医療の現場では以下の「準備行動(Preparedness)」が求められます。

ライフラインと備蓄の点検

水、食料、燃料、医薬品(特に酸素や透析液など)の在庫を確認し、物流停止に備えた早期発注や整理を行います。

職員の安全確保と参集体制の確認

発災時に医療スタッフ自身が被災しないよう、家具の固定や避難経路の再確認を促します。また、夜間休日の連絡網(Call tree)が機能するかを点検する契機となります。

DMATおよび救護班の待機レベル引き上げ

通常の当直体制に加え、発災直後に出動可能なリエゾンや先遣隊のスターティングメンバーが、装備品を確認し「いつでも出られる」状態(待機)に移行します。


一方で、この情報は事前避難や大規模な経済活動の自粛を求めるものではなく、交通機関の一斉運休や学校の休校といった措置は前提としていません。平常の生活を続けつつ、地震・津波発生時に即座に避難行動に移れるよう準備しておくことが強調されています。​

医学生・研修医にとっての意義

1つ目の意義は、「プレート境界巨大地震の発生様式」と「統計に基づく確率評価」を踏まえた“リスクコミュニケーション”の好例であることです。単に「危ないから逃げて」ではなく、「確率1%という数字」「過去に連続発生した事例」「生活制限は求めないが、いつでも避難できる準備を」というバランスのとれたメッセージデザインは、災害医療・公衆衛生における情報発信の教材になります。​

2つ目は、救急・災害医療体制の「スタンバイ状態」を社会的に共有するトリガーとして機能する点です。地震直後の余震対応だけでなく、「数日〜1週間程度、より大きな地震と津波に備える期間」として、病院BCPやDMATの待機体制、スタッフの安否確認・連絡系統の確認などを再点検する契機となります。​医学生・研修医にとっては、「どの情報が出たら、医療機関として何を確認・準備するのか」を具体的にイメージすることが、今後の実務に直結します。​

3つ目として、今回の情報は「パニックを避けつつ、現実的な危険度上昇を伝える」新しい枠組みでもあります。メディア報道では“巨大地震の確率が10倍”と強調される一方で、専門家は「1%は依然として低確率だが、起きれば甚大な被害となる事象であり、備えを強化すべき」と解説しており、このギャップをどう埋めるかが今後の課題です。
医療者は、地域住民に対して「過度な不安を抑えつつ、行動変容を促す」説明役を担うことが期待され、今回の後発地震注意情報は、その訓練材料としても重要です。

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