抄読会・症例検討会

抄読会#24:AHA心肺蘇生ガイドライン2025改訂:日本語版ハイライトの要点解説

 救急医学に関心を持つ医学生・研修医の皆さんに向けて、2025年10月に公開された「AHA(アメリカ心臓協会)心肺蘇生(CPR)および救急心血管治療(ECC)のためのガイドライン 2025年版」の主要なポイントを「日本語版ハイライト」をもとに解説します。今回の改訂は、成人・小児・新生児の救命処置から、教育、治療システム、そして新たに深く掘り下げられた倫理まで多岐にわたる包括的な内容となっています。

Circulation. 2025 Oct 21;152(16_suppl_2):S479-S537.
 doi: 10.1161/CIR.0000000000001368. Epub 2025 Oct 22.

1. 推奨事項の構成とエビデンスの現状

2025年版では、合計760件の具体的な推奨事項が示されました。

  • 推奨クラス(COR): クラス1(強い推奨)が233件、クラス2(中等度・弱い推奨)が451件となっています。
  • エビデンスレベル(LOE): 特筆すべきは、最高位の「レベルA(複数の質の高いRCT等)」に基づく推奨がわずか11件(1.4%)にとどまっている点です。これは、蘇生科学において質の高い研究を実施することの困難さと、今後の皆さんの研究への期待を示唆しています。

2. 「倫理」:意思決定と格差への対応

今回のガイドラインでは、独立した章として「倫理」が詳細に解説されました。

  • 基本原則: 善行、無危害、自律性の尊重、公正の4原則に基づき、複雑な蘇生の現場における意思決定の枠組みを提示
  • 健康の不公平性: 医療従事者および組織は、健康の社会的決定要因における構造的な不公平性に積極的に対処し、心停止の転帰における格差を是正する責務があることが強調された
  • 共同意思決定: 患者の目標や価値観に沿った「共同意思決定」が推奨され、事前治療計画(事前指示書)の重要性が改めて示された

3. 治療システム:救命の連鎖の統合

  • 単一の「救命の連鎖」: 院内(IHCA)と院外(OHCA)を統合した単一の連鎖が作成され、予防、認識、蘇生、回復の各段階が整理された
  • セーフティハドル(事前打合わせ): 院内での心停止発生率を低減させるため、高リスク患者の状況認識を改善するセーフティハドルの実施が新たに有効として推奨された
  • デブリーフィング: 蘇生実施後の即時(ホット)および遅延(コールド)のデブリーフィングを組み合わせることが、システム改善のために推奨された

4. 各領域の主な変更点(医学生・研修医が押さえるべきポイント)

領域主な更新内容・ポイント
成人の一次・二次救命処置血管確保: まず静脈(IV)路を優先し、困難な場合に骨髄(IO)路を検討する。AF除細動: 心房細動への同期電気ショックは、初期設定を200J以上の高エネルギーとすることが妥当。異物除去: 重度の気道閉塞に対し、背部叩打5回と腹部突き上げ5回を交互に繰り返す。
小児の一次・二次救命処置乳児の圧迫: 「胸郭包み込み両母指圧迫法」または「片手圧迫法」が推奨され、2本指圧迫法はもはや推奨されないエピネフリン: 非ショック適応リズムの場合、できるだけ早く初回投与を行う。
新生児の救命処置臍帯管理: 蘇生を必要としない場合、60秒以上の臍帯遅延結紮が有益である。ビデオ喉頭鏡: 気管挿管が必要な新生児に対し、有用である可能性が示された。
心停止後の治療血圧管理: 平均動脈圧(MAP)は少なくとも65mmHg以上を維持する。体温管理: 口頭指示に反応しない場合、少なくとも36時間は体温管理を継続することが妥当。

5. 特殊な状況:LVADや薬物過剰摂取

  • LVAD(左心室補助装置): 灌流障害を伴う無反応なLVAD装着患者に対し、デバイス損傷のリスクよりもベネフィットが上回るため、直ちに胸骨圧迫を開始すべきであるとされた
  • ナロキソン: オピオイド過剰摂取が疑われる場合、標準的なCPRを妨げない限り、救助者によるナロキソン投与が推奨

おわりに

2025年版ガイドラインは、単なる手技のアップデートにとどまらず、患者一人ひとりの自律性や社会的背景、さらには救助に携わるチーム全体のメンタルヘルスや教育にも焦点を当てています。 研修医の皆さんは、まずIV路の優先順位乳児の圧迫法の変更といった、臨床現場で直ちに直面する変更点から確実にマスターしていきましょう。

蘇生医学の世界は常に進化しています。このガイドラインを羅針盤として、日々の臨床と学びに励んでください。

-抄読会・症例検討会