
JAAM-2 DIC診断基準とISTH改訂overt DIC基準から学ぶ最新の考え方
DIC診療は「早く見つける」時代へ
播種性血管内凝固(DIC)は、敗血症をはじめとする重症疾患に合併する、生命を脅かす凝固異常です。DICというと「出血しやすくなる病態」と理解されることが多いですが、実際には微小血栓による臓器障害が病態の中心となる場合も多く、救急・集中治療領域では早期診断が極めて重要です。近年は国内外で診断基準やガイドラインの改訂が相次ぎ、DICは進行した段階で捉える病態から、早期に見つけて介入する動的な病態へと再整理されつつあります。
DICとはどのような病態か
DICは、多様な基礎疾患に伴って全身の凝固系が活性化し、細小血管内に微小血栓が形成されることで、臓器障害や出血傾向を引き起こす後天的症候群です。代表的な基礎疾患は敗血症、固形がん、血液悪性腫瘍ですが、外傷、熱中症、産科疾患、大血管異常などでも発症します。特に敗血症では、炎症と凝固が相互に増幅しながら病態が進行するため、DICは重症化を読み解くうえで非常に重要なキーワードになります。
近年の理解では、DICは単なる凝固異常ではなく、炎症と凝固が連鎖する血栓性炎症(thromboinflammation)として捉えられています。病原体や組織障害によって免疫応答が賦活化されると、単球・好中球・血小板・血管内皮が相互に作用し、組織因子発現、NETs形成、補体活性化を介して凝固が進行します。さらに、抗凝固系や線溶系も障害されることで微小血栓形成が持続し、臓器障害へとつながります。
なぜ今、DIC診断基準の改訂が注目されているのか
DIC診療の大きな流れは、「早期発見・早期治療」をより重視する方向へ進んでいます。従来は進行したDICを診断することに重点が置かれてきましたが、重症患者の転帰改善のためには、より早い段階で凝固異常に気づき、適切に介入することが重要であると再認識されています。これに伴い、近年の診断基準改訂では、臨床現場での使いやすさ(簡便性)を重視して診断項目を絞る方向がみられます。
その中で特に重要なのが、国内で活用されるJAAM-2 DIC診断基準(2024年)と、国際的な基準であるISTH改訂overt DIC診断基準(2025年)です。これらはともに、DICをより実践的に捉えるためのアップデートとして位置づけられています。
1.JAAM-2 DIC診断基準(2024年)の主な変更点
日本救急医学会(JAAM)による従来の急性期DIC診断基準は、救急・集中治療の現場で広く用いられてきました。一方で、従来基準にはSIRS(全身性炎症反応症候群)項目が含まれており、これが軽症例を拾い上げすぎる可能性や、現在の敗血症定義との整合性の問題として指摘されていました。
SIRS項目の削除
JAAM-2 DIC診断基準における最も大きな変更点のひとつは、SIRS項目が削除されたことです。2016年のSepsis-3では敗血症定義からSIRSが外れており、従来のJAAM-DIC基準は日常診療とのずれが課題となっていました。今回の改訂ではこの問題が整理され、より現代の臨床に適した、簡便で実用的な基準へと見直されました。
カットオフ値の変更
さらにJAAM-2では、血小板数、D-dimer(またはFDP)、PT-INRといった主要検査項目のカットオフ値が見直されました。スコアリングの閾値が調整されたことで、従来のJAAM-DIC基準と同等の臨床的有用性を保ちながら、より現場で扱いやすい診断基準として再構成されています。総説では、敗血症患者を対象とした検討で、JAAM-2 DIC基準が旧JAAM基準の代替となりうることも紹介されています。
2.ISTH改訂overt DIC診断基準(2025年)の主な変更点
国際血栓止血学会(ISTH)は、これまでovert DIC診断基準を国際的な標準として広く用いてきました。しかし従来基準には、フィブリン関連マーカーの閾値が明確でないことや、進行期DICは捉えやすい一方で早期DICの検出には限界があることが課題としてありました。
DICを「動的病態」と再定義
2025年の改訂でISTHは、DICを無症候性で経過しうる早期(early phase)から、出血傾向や臓器障害を示す進行期(advanced phase)へ進行する動的病態として再定義しました。これはDICを“ある一時点の完成した異常”としてではなく、時間経過の中で進行する病態として捉え直した点で非常に重要です。特に敗血症関連凝固異常(SIC)を含む早期の凝固障害を見逃さないことが強調され、早期発見・早期管理の重要性がこれまで以上に明確になりました。
D-dimerのカットオフ値が明示された
もうひとつの大きな改訂点は、従来不明確であったD-dimerのカットオフ値が明示されたことです。改訂overt DIC診断基準では、D-dimerが正常上限値の3倍超で2点、7倍超で3点とされ、フィブリン関連マーカーの評価がより標準化されました。これは、従来のovert DIC基準における代表的な弱点を補う重要な改訂といえます。
診断基準は「どれが正しいか」ではなく「どう使い分けるか」
DIC診断で大切なのは、ひとつの基準だけですべてを判断しようとしないことです。総説でも、2024年のDIC診療ガイドラインや関連する考え方として、簡便な基準と特異度の高い基準を組み合わせる“二段階診断”の重要性が示されています。
具体的には、早期のDIC診断や治療開始の判断にはJAAM-DIC基準やSIC(敗血症関連凝固障害)基準を用い、進行期DICの診断や死亡予測にはISTH overt DIC基準を用いるという実践的な使い分けが推奨されています。これは、感度の高い基準で早期変化を拾い上げ、その後により特異度の高い基準で病態を評価する、という非常に臨床的な考え方です。
とくに敗血症の現場では、「すでに完成したDICを待って診断する」のではなく、凝固異常の早期サインを見つけて介入する姿勢が重要になります。その意味で、JAAM-2 DIC基準とSIC基準、ISTH overt DIC基準は競合するものではなく、病期に応じて使い分けるべき補完的なツールといえます。
医学生・研修医が押さえたい実践ポイント
1) 敗血症DICでは出血よりも臓器障害が前面に出ることがある
敗血症で典型的なのは線溶抑制型DICで、出血が目立たなくても微小血栓による末梢循環障害や多臓器障害が進んでいることがあります。したがって、DICを「出血性疾患」とだけ捉えるのは不十分です。
2) フィブリノゲンが下がらなくても否定できない
敗血症DICでは、炎症の影響でフィブリノゲンが低下しない、あるいは上昇して見えることがあります。また、FDPやD-dimerの上昇も想像より軽度にとどまる場合があります。検査値が“典型的な消費性凝固障害”に見えないからといって、DICを簡単に否定できない点は非常に重要です。
3) 単発の値ではなく経時的変化を見る
DICは動的病態であるため、血小板数の連続的な低下や凝固マーカーの推移を追うことが大切です。特に早期診断では、「今この値が基準を超えているか」だけでなく、前日・前々日からどう変化しているかを意識することが実践的です。
4) 血小板減少を見たら鑑別も忘れない
敗血症患者で血小板が減少していても、DICだけでなくTMA、HIT、免疫性血小板減少などの鑑別が必要です。DIC診断は検査所見のみで完結するものではなく、基礎疾患、病態、凝固・線溶異常の組み合わせで考える必要があります。
まとめ
DIC診療は今、「早期発見・早期介入」へと軸足を移していると言えます。その中で、JAAM-2 DIC診断基準(2024年)はSIRS項目の削除とカットオフ値の見直しによって、より現場で使いやすい基準へと改訂されました。一方、ISTH改訂overt DIC診断基準(2025年)は、DICをearly phaseからadvanced phaseへ進行する動的病態として再定義し、さらにD-dimerが正常上限値の3倍超で2点、7倍超で3点という明確な閾値を示したことが大きなポイントです。
そしてガイドライン上は、JAAM系基準やSIC基準で早期を捉え、ISTH overt DIC基準で進行期や予後を評価する二段階診断が重要とされています。こうした改訂は、DIC診療の標準化を進めるだけでなく、今後の治療戦略の整理や患者予後の改善にもつながることが期待されています。医学生・研修医の皆さんには、DICを単に「出血の病気」としてではなく、重症病態を読み解くための重要な視点として学んでいただければと思います。